「冷え」はからだのめぐりにとって大敵? 体温の下がる理由と対策
からだのめぐり教室
vol.2
移り変わる季節や、自然の営みと同じように、私たちのからだもまた絶えずめぐり続けています。漢方医学ではこの「めぐり」を重視しており、滞りなくめぐっている状態が健康だと考えられています。
「からだのめぐり教室」では、からだのめぐりの仕組みや大切さを一から学び、考えていきたいと思います。教えてくれるのは、漢方医学や自然療法、食事療法からさまざまな症状の治療にあたってきたイシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員の石原新菜先生。第2回目は、からだが「めぐっている」状態をつくるためのカギとなる「体温」に注目。「冷え」が健康によくないと言われる理由について、また「体温を上げる」ことが私たちのからだにどう影響するのか、お話を伺いました!
「気」「血」「水」をめぐらせるカギは「体温」を上げること
私たちのからだをめぐる「気」「血」「水」それぞれの役割や、三要素が相互に影響しあっていることを学んだ前回。「めぐりのいい人」になるためには、「からだを温める」、すなわち「体温を上げる」ということも大切なポイントでした。体温とめぐりの間には一体どんな関係性があるのでしょうか?
「冷え」はめぐりの大敵
体温とは文字通り体内の温度のこと。それを維持するために必要となるのが「血液」です。血液には、からだの隅々の細胞まで栄養や酸素を届け、不要になった老廃物を回収する働きがあるだけでなく、体内でつくられた熱を運び、からだを温めるという重要な役割も持っています。そのため、「血」のめぐりが悪くなればからだは冷え、体温も低下してしまうのです。
体温が低下すると、からだにはさまざまな影響が……。例えば、慢性的な肩こりや頭痛、便秘に下痢、肌荒れといった症状のほか、イライラや落ち込み、不眠など精神的な不調を引き起こすことも。また女性の場合は、生理痛や子宮筋腫といった婦人科系のトラブルも招きやすくなります。さらに、血流が悪くなれば全身の代謝も低下するため、むくんだり太りやすくなったりする原因にもなりえます。
「めぐりのいい人」を目指すなら「体温を上げる」ことから
そこで私たちにどんなことができるのかというと、からだを温め、「体温を上げる」こと。落ち込んだり、イライラしたりしたとき、「気・血・水」のなかの「『気』のめぐりをよくしよう!」と思っても、自力でめぐらせることは難しいですが、「血」のめぐりは体温を上げることでよくすることができます。「気・血・水」の三要素は互いに影響しあっているため、まず「血」の滞りを解消することで、「気」や「水」もおのずとめぐり出すはずです。
それが実感できるエピソードとして、スポーツジムに行くまでは面倒くさいと感じていたのに、からだを動かし汗を流したあとは、「行ってよかった!」と気持ちがスッキリした経験はありませんか? これは体温が上がり「血」がめぐったことで「気」がめぐり出したということ。体温を上げることは、「めぐりのいい人」になるためのいちばんの近道です。
体温を1℃上げれば、免疫力も30%アップ!
「めぐりのいい人」でいるための理想の体温とは?
そもそも自分の体温が高いのか、低いのかわからないという人も多いのではないでしょうか。石原先生によると、理想の体温(平熱)は36.5℃。「100歩譲っても36℃はほしい」とのことです。そう聞いて「高い!」と感じた人もいるかもしれません。実は、日本人の平熱は約60年前に比べて1℃近くも下がっていて、現在は35.8〜36.2℃前後が平均。とくに女性の8割は冷え性を自覚していて、平熱も多くが36.5℃未満だと言われています。近年では男性でも6割、子どもも5割が平熱36.5℃未満に。体温の低い人がとても増えているのです。そうした要因には、からだを冷やす食材である夏野菜や南国のフルーツなどを1年中食べられるようになったことや、常に冷暖房の効いた室内で過ごせるようになったこと、からだを動かす機会が減ったことなどが関係していると考えられています。私たち現代人は、便利さや快適さを手に入れた一方で、とても冷えやすい生活を送っているとも言えるのです。
ではなぜ、36.5℃が理想の体温なのでしょうか。私たちのからだの中では常にたくさんの化学反応が起こっています。摂取した食べ物をエネルギーに変えたり、有害物質を排出したり、そうした細胞の化学反応をスムーズにしているのが「酵素」です。この酵素の働きが鈍くなれば、臓器は正常に動かず、代謝も落ちてしまうことに。そんな生命維持に欠かせない酵素がよく働く温度が、37〜40℃なのだそう。体内の温度は脇の下で計った温度より約1℃高くなるため、平熱は最低でも36℃以上あることが理想的なのです。
また、体温は「免疫力」にも大きく影響しています。免疫力とは風邪をひいたり、体内に有害物質が入ったりしたときに、からだが自らを守ろうとする力のこと。それを支えているのが免疫細胞です。主役は血液中にある白血球。その働きが最も活発になるのが36.5〜37℃のときだと言われています。そのため、体温を上げることは白血球の働きを活性化し、風邪や病気の予防にもつながっていきます。最近の研究では、体温が1度上がると代謝が12%、免疫力が30%もアップすると言われています。
からだが冷えるさまざまな原因と、体温を上げるためにできること
からだが冷える原因には食生活や日頃の習慣などが大きく関係しています。ここでは、そのさまざまな原因を詳しくご紹介。心当たりのある人は、これ以上からだを冷やさないためにも、日々の生活習慣を見直すきっかけにしてみてください。
【筋肉量の不足】
体温の約40%は筋肉でつくられています。男性に比べて筋肉量が少ない女性に冷え症が多いのはこのため。瘦せ型の人や高齢者も冷えやすいと言えます。筋肉には血液をポンプのように送り出す働きがあるので、運動して筋肉を動かすことでからだの隅々まで血液が行き渡り、からだを温めることができます。効率よく体温を上げるポイントは、下半身を動かすこと。筋肉の約7割は下半身についているため、おしりやモモなど大きい筋肉を意識的に動かすとよいでしょう。前回ご紹介したスクワットは自宅で簡単にできる運動としておすすめです。
【ストレスや寝不足】
私たちのからだは外が寒くても体温を一定に保つことができますが、これは自律神経の働きによるもの。自律神経には、起きている間やストレスを受けたときに優位になる「交感神経」と、睡眠中などリラックスしているときに優位になる「副交感神経」の2種類があり、互いにバランスを取り合うことで心身の健康を保っています。しかし、「交感神経」が優位になるとき血管がぎゅーっと縮み血流が低下。そのためストレスや寝不足によって交感神経が優位な状態が続くと、「血」のめぐりが悪くなり、からだが冷えやすくなってしまうのです。
【水分のとり過ぎ】
よく美容のために1日何リットルも水を飲む人がいますが、普段デスクワークやからだを動かさない生活をしている人にとって、それは水分のとり過ぎになってしまいます。水は熱を奪う性質があるため、からだに溜まった余分な水は冷却水のようにからだを冷やします。意識的に水分を取るのはいいことですが、その分運動や半身浴でしっかり汗を流し、滞らないようにすることが大切です。
【お風呂はシャワーだけ】
とくに夏場は湯船につからずシャワーだけで済ませてしまう人も多いかもしれませんが、これも冷えの大きな原因。できれば毎日入浴することをおすすめします。湯船に浸かることでからだが芯から温まり、血流がアップ。筋肉がほぐれることでリラックス効果も期待できるほか、発汗することで余分な水分も排出できます。夏場は38〜40度の少しぬるめの温度に設定するとからだへの負担も軽減できます。
【「夏冷え」にも注意!】
気温の高い夏は、「冷え」とは無縁と思われがちですが、近年は夏場でもからだが常に冷えている「夏冷え」の女性が増えています。手足が冷える、お腹を触ると冷たい、疲れやすいなどの症状は「冷えている」サイン。腹巻を活用するほか、ストールやひざ掛けを用意したり、温かい飲み物を飲んだりして、からだを冷やさないよう注意しましょう。
からだを温めて、「めぐりのいい人」を目指そう
体温は日頃の心がけ次第で上げることができます。石原先生の診てきた患者さんの中には2週間で0.5〜1℃上がった人もいるのだとか。「平熱が低い人はからだの動きすべてがLOW(ロー)な状態。それが普通になっているので自覚がないかもしれませんが、体温が上がることで、本当に元気な自分の状態がわかるはずですよ」。
普段あまり意識することのない自分の体温。たった1℃の違いが「気」「血」「水」のめぐりに大きく影響し、心やからだの健康状態に現れます。体温は自分の力で上げられるもの。いまちょっとした不調に悩んでいる人は体質だからとあきらめず、普段からからだを温めることを心がけ、常に「めぐりのいい人」でいられるよう、改めて自分の体温を意識して生活してみましょう!
参考文献:
石原新菜著『オトナ女子の不調がみるみる改善する本 血流を整えてサラサラにすればすべて解決!』(2018年/徳間書店)
石原新菜著『「体を温める」と子どもは病気にならない』(2012年/PHP研究所)
監修:石原新菜(イシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員)
取材・文:秦レンナ
イラスト:ナガタニサキ
編集:石澤萌、野村由芽(me and you)