冬の疲れにさよなら。「血」のめぐりの鍵はリラックスに
からだのめぐり教室
vol.4
移り変わる季節や、自然の営みと同じように、私たちのからだもまた絶えずめぐり続けています。漢方医学ではこの「めぐり」を重視しており、滞りなくめぐっている状態が健康だと考えられています。
「からだのめぐり教室」では、からだのめぐりの仕組みや大切さを一から学び、考えていきたいと思います。教えてくれるのは、漢方医学や自然療法、食事療法からさまざまな症状の治療にあたってきたイシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員の石原新菜先生。第4回目は、全身をめぐって栄養を与える「血」のお話。この時期、年末年始で疲れやストレスを抱えている人も多いのでは? 今回は、ストレスが「血」のめぐりに与える影響や「血」の滞りを防ぐ方法を教えていただきました!
「闘いモード」で血液が渋滞? ストレスと「血」のめぐりの関係
これまでも学んできたように、私たちの体をめぐる「気」「血」「水」三要素のうち、「血」は、血液のことを指します。血液は皮膚や髪、臓器や筋肉など全身に酸素や栄養、免疫物質などを運ぶと同時に、いらなくなった老廃物を回収する役割があります。健やかなからだを維持するためには欠かせない「血」ですが、意外なことに、ストレスをきっかけにそのめぐりが悪くなってしまうことがあるそうです。
ストレスが「血」のめぐりに与える影響は?
前回、心身にストレスがかかることで「気」のめぐりが悪くなることは解説しましたが、からだの隅々まで「血」を行き渡らせるためには「気」の力が不可欠です。そのため、「気」のめぐりが悪くなれば、当然「血」のめぐりも悪くなってしまいます。
現代医学の観点から説明すると、心身にストレスがかかると自律神経のうち、交感神経が優位になります。すると、からだは「闘いモード」に。筋肉は緊張状態になり、血管がギューッと縮むために血行が悪くなり、血圧も上がります。こうした状態が長く続くと、冷えや肩こり、頭痛や生理痛などさまざまな不調が起こり始めます。
中でもわかりやすいのが目の下のクマ。心臓から流れ出た血液は全身をめぐり、末端から静脈で戻ってきます。そもそも静脈は血液を押し流す勢いが弱いため、血管が収縮して細くなってしまうとうまく流れることができず、中で渋滞が起きているような状態に。とくに管の細い毛細血管は滞った血液でパンパンになってしまいます。それが皮膚から透けて見えるのがクマです。目の下の皮膚は薄いのですぐに確認することができますが、実はこのとき、全身にも同じ症状が起こっています。つい軽く考えてしまいがちなストレスですが、血圧や血流の働きに大きな影響を与えているのです。
「血」がめぐらないと、何が起きる?
「血」がめぐらないとは、単純に「血行が悪い」というだけではありません。「血」が滞った状態を「瘀血(おけつ)」、「血」が不足している状態を「血虚(けっきょ)」と言い、原因も症状も異なります。それぞれ解説していきましょう。
●瘀血(おけつ)
血液がうまく流れず滞っている状態を指します。その原因はいくつかあり、ストレスにより血管が収縮してしまうことや、冷えによって血行が悪くなること、また肉や油の取り過ぎや生活習慣によって血中の糖分やコレステロールが増え、血液がドロドロになることでも起こりやすくなります。症状としては肩こり、腰痛、頭痛といった体の痛み、生理痛や血液が鬱滞して起こる子宮筋腫など、婦人科系の不調にも影響を及ぼすことがあるそう。
わかりやすいサインとしては、目の下のクマのほかに、歯のすぐ下の歯茎の色や口の周りが茶色や紫色になっている人、ベロが紫色っぽい人は要注意です。
●血虚(けっきょ)
必要な「血」の量が不足している状態のことで、とくに生理で血液を失いがちな女性に多く見られます。からだに栄養が不足するため、とくに爪や髪など末端に影響が出やすく、顔が青白い、肌が乾燥する、髪がパサつく、爪が割れやすいといった症状が出やすくなるほか、「鉄欠乏性貧血」にも「血虚」が関係しています。
厚生労働省が推奨する1日の鉄分摂取量は、月経のある成人女性で約10.5〜11mgとされていますが、毎日の食事だけでこの量を摂取するのはなかなか難しいもの。そのうえ毎月生理によって約40mgの鉄分を失うと言われており、慢性的に鉄分不足の人がほとんどです。また過度なダイエットも鉄分や「血」が足りなくなる原因になります。
「血」をめぐらせるヒントはリラックスすることに
いつでも痛みや不安のない快適な状態で過ごしたい! そう願いながらも、長年、生理痛や鉄欠乏性貧血などに悩まされていると、不調は起きて当たり前、仕方がないものと思い込んでしまう人も少なくありません。ですが、それらの不調には「血」のめぐりが大きく関わっているようです。目の下にクマはありませんか? 肩こりにも悩まされていませんか? 「血」がめぐっていないと感じるあなたはぜひ以下のことを心がけてみてください。
自分に合ったストレス発散法を見つける
まず、日頃からストレスや疲れを感じている人は、それを発散することが最重要です。「私はクリニックでの診察が終わると、一度心身をリセットするためにジョギングをするのが日課なんです。走っている間は無心になれるので瞑想しているような状態。汗もかいてすごくリフレッシュできます」と石原先生。
ほかにも、カラオケで歌う、運動して汗を流す、瞑想をする……など、いろんな発散方法があげられますが、運動が苦手な方は無理にからだを動かす必要はありません。好きな映画を観たり、本を読んだり、要は自分がリラックスできることが大切です。からだがリラックス状態になると副交感神経が優位になるため、縮んでいた血管が緩み、血流も良くなります。自分なりの気分転換を見つけて、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
睡眠時間を確保して「リラックスモード」の時間を
通常起きている間は交感神経が優位な状態にあります。そのため夜ふかしや徹夜をすると長時間交感神経が働き、血管もまたずっと収縮し続けることに。「血」のめぐりに寝不足は禁物です。体には大きな負担がかかっています。一方、睡眠中は副交感神経が優位になり、からだは「リラックスモード」に。血流が良くなり、末端までくまなく血液を届け、からだを回復させてくれます。
入浴で体を温め血行アップ!
筋肉はからだの熱を作る働きがありますが、平均的に女性は男性に比べて筋肉量が少なく、冷え性や低体温になりやすいと言えます。からだが冷えるとこれ以上体温を逃さないために血管が縮むため、血行が悪くなり、「瘀血」へとつながります。「血」のめぐりを良くするには、日頃から、からだを温めることを意識しましょう。とくに入浴は、心身をリラックスさせ副交感神経を優位にしてくれる効果も。「血」のめぐりを良くするにはできるだけ湯船に浸かる習慣をつけたいですね。
血のめぐりを良くする食材を積極的に摂る
日々の食事でも「血」のめぐりを意識したいもの。「瘀血」の人には、生姜やネギ、タマネギなどがおすすめです。生姜には「ショウガオール」という体を温める成分があり、ネギ類の「アリシン」という成分には毛細血管を拡張し、さらに血液をサラサラにする働きがあります。イワシやサンマなど青魚に含まれる「オメガ3脂肪酸」、アボカドやナッツ類などに豊富な「ビタミンE」も血液の流れをスムーズにしてくれます。また、食べ過ぎ・飲み過ぎの人は、老廃物を外に追い出し、血流を良くしてくれるお酢を積極的に摂るようにするといいでしょう。
一方、「血虚」の人は「血」を補う食材を摂ることを意識して。増結作用のある鳥レバーや赤身の肉、鉄分の豊富なほうれん草や小松菜、豆類などを積極的に取り入れるようにしましょう。
「血」のめぐりをよくして、日々の不調にさよならしよう
多くの女性はそもそも冷えや低体温になりやすいだけでなく、生理がある人はどうしても「血」のめぐりが悪くなりがちです。そのうえ、日々のストレスや寝不足、運動不足などが重なればダメージは相当のもの。また、性別に限らずたくさんの人が抱えている肩こりや頭痛、便秘などの不調は、そのほとんどが「血」の滞りによって引き起こされていると言っても過言ではないと石原先生は言います。
「『血』のめぐりが良くなると、これまで我慢したりあきらめたりしてきた不調が改善されていきます。とくに慢性的な冷えや貧血がなくなると本当にからだが楽になるはず。肌や髪の毛もうるおい、美容面でも嬉しい効果が期待できますよ。鉄分不足になりやすい女性は、特に『血』をめぐらせることを意識してもらえたら、きっと毎日が過ごしやすくなると思います。」
これまで当たり前だった不調は、本来ないことが自然です。痛みや辛さのない日々を送るためにも、ストレスを上手に発散して「血」のめぐりを滞らせないようにしていきましょう!
監修:石原新菜(イシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員)
取材・文:秦レンナ
イラスト:ナガタニサキ
編集:石澤萌(sou)、野村由芽(me and you)