ストレス社会で大切な「気」のめぐり。自律神経との関係も
からだのめぐり教室
vol.3
MEGLY編集部
移り変わる季節や、自然の営みと同じように、私たちのからだもまた絶えずめぐり続けています。漢方医学ではこの「めぐり」を重視しており、滞りなくめぐっている状態が健康だと考えられています。
「からだのめぐり教室」では、からだのめぐりの仕組みや大切さを一から学び、考えていきたいと思います。教えてくれるのは、漢方医学や自然療法、食事療法からさまざまな症状の治療にあたってきたイシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員の石原新菜先生。第3回目は、生命エネルギーとも言える「気」のめぐりについてのお話です。「気」は、よく耳にする「自律神経」とも関係しているといいますが、その役割や「気」が滞ることでどんな影響があるのか、お話を伺いました!
私たちのからだを動かすエネルギー「気」と自律神経の関係
だんだん寒くなってくるこの季節。なんとなくからだがだるかったり、頭痛や肩こりに悩まされていたりと、不調を抱えていませんか? 寒暖差や気圧の変化が大きくなる季節の変わり目は、からだにストレスがかかることで自律神経が乱れがちに。すると、さまざまな不調が出やすくなるといいます。この自律神経と近いものとされるのが、漢方学で言う「気」です。Vol.1でお伝えしたように、「気・血・水」三要素の中で「気」が最も重要だとされる理由と合わせて解説していきましょう。
自律神経と「気」の役割
自律神経は、からだの隅々にまで張りめぐらされている神経で、24時間休まず働き続け、代謝や体温の調節、血液の循環、消化、呼吸といった内臓の働きすべてに関わっています。また、自律神経には心身の活動を活発にし、緊張状態のときに優位になる交感神経と、心身がリラックスしたときに優位になる副交感神経があり、この2つがバランスを取り合い、上手く切り替わることで健康状態が保たれています。
一方「気」は、「元気」の「気」であり、生きるために必要な活力や気力の源。臓器や器官の働きをつかさどる、目には見えない生命のエネルギー源です。そして、この「気」のパワーによって、「血」や「水」は全身をめぐることができます。つまり、「気」が滞ってしまうと、からだを健康に維持すること自体難しくなってしまうのです。
さまざまなストレスが自律神経と「気」を乱す
ところで、「自律神経が乱れる」とはどのようなことを言うのでしょうか? 石原先生によると、その主な原因となるのがストレスです。
わたしたちは常に多くのストレスにさらされています。たとえば仕事の忙しさや人間関係における悩みや不安……。季節の変わり目の気温や気圧の変化もその1つです。こうしたストレスを感じると、過酷な環境から身を守るために交感神経が優位に働き、心身は「戦いモード」になります。これは生命維持に欠かせない人間の仕組みであり、必ずしも悪いことではありません。問題なのは、この状態が長く続くこと。交感神経が優位になり続ければ、副交感神経とのバランスが崩れて自律神経の乱れが生じます。この状態は「気」にも言えて、ストレスによって「気」が停滞したり消耗したりすることで、スムーズにめぐらなくなってしまうのです。
「気」がめぐらないと、何が起きる?
何かとストレスの多い現代人は、「気」がめぐっていない人が多いと石原先生は言います。「気」が滞ったり、消耗して不足したりすると、わたしたちのからだにはどのようなことが起こるのでしょうか?
「気」が滞っている状態「気滞(きたい)」
ストレスや疲れ、寝不足が続くなどして自律神経が乱れることで「気」がスムーズに流れていない状態のこと。精神的に不安になったり、落ち込んだり、鬱(うつ)っぽくなります。不眠や食欲不振のほか、ひどくなるとパニック発作などを引き起こすことも。初期段階では、喉に不調を感じる人が多く、喉が詰まる、息が上手く吸えないなどと訴える人が多くいるそうです。また、「気」が下半身にめぐらず、上半身に集まってしまう状態を「気逆(きぎゃく)」と呼び、下から突き上げるような動悸やイライラ、頭痛などを引き起こすことがあります。
「気」が足りない状態「気虚(ききょ)」
ストレスにより「気」を多く消耗することや、加齢、元々の体質が原因となり「気」が足りていない状態のこと。やる気が起きない、朝起きられない、疲れやすい、風邪をひきやすいといった症状が出やすくなります。普段から座りっぱなしでからだを動かさない、ファストフードやコンビニ食ばかり食べている、ダイエットをしているといった人も「気」が不足しやすく、とくに若者に「気虚」タイプの人が増えているそう。
「気」の滞りを防ぎ、よりよくめぐらせるためにできること
石原先生によると「気」は自力でめぐらそうと思ってもなかなか難しいとのこと。では、「気滞」や「気虚」の状態になってしまったとき、「気」をめぐらせるにはどうすればいいのでしょうか? また「気」の滞りを防ぐ方法も気になります。
「血」をめぐらせて「気」にアプローチ!
注目したいのが、「気・血・水」の「血」。エネルギーは血と共に全身をめぐっています。血行を良くすることで滞っていた「気」を引っ張り、一緒に流すことができるのです。そのためには入浴や運動でからだを温め血行を良くすることを心がけましょう。血行が良くなり、緊張して固まった筋肉をほぐすことで副交感神経が働き、自律神経の乱れの改善にもつながります。
「呼吸」で自律神経を整える
自律神経を整えることは「気」のめぐりをよくすることにつながります。普段意識とは関係なく働き続けている自律神経ですが、唯一自力でコントロールすることができるのが呼吸です。この呼吸を使えば、自律神経に働きかけ優位になった交感神経をしずめ、副交感神経とのバランスを取り戻すことができます。
ポイントは、少し吸って長く吐くこと。普段は「吸う」ことに意識が向いてしまいがちですが、「吐く」ことに重きを置いてみましょう。このとき目は閉じておくほうが、視覚からの脳への刺激を減らすことができ、よりリラックスできます。10回ほど繰り返せば次第に気持ちが落ち着いてくるはずです。忙しい仕事の合間やパニックになりそうになったときには、この呼吸法を意識してみてください。
食べ物から「気」を補う
足りなくなった「気」は、食べ物から補うこともできます。朝、生のにんじんとリンゴでジュースをつくって飲むのが日課だという石原先生。酵素やビタミンなどの栄養素を摂取するためだけでなく、食べ物の持つ自然の「気」を取り入れる意味もあるといいます。とくに旬の新鮮な食材には「気」が多く、それをできれば丸ごと食べるのがおすすめだとか。逆に、つくってから時間の経った加工品やファストフードばかり食べていると「気」が不足する原因の一つに。日頃の食生活も見直してみましょう。
よい香りで「気」に働きかける
香りには「気」を動かす作用があると言われ、たとえば、生姜やシソ、セロリやパセリといった薬味、シナモンなど香り高いスパイスなどを日々の食事に取り入れるのもおすすめです。そのほか、乾燥したゆずの皮などを入浴剤に使うのもいいでしょう。柑橘系の爽やかな香りは疲れをリフレッシュさせてくれるとともに、「気」のめぐりも良くしてくれます。
頑張りすぎてしまう人こそ、「気」のめぐりを意識しよう
心身の健康を保つのに大切な自律神経の働きと「気」のめぐり。その大敵となるのがストレスです。普段頑張りすぎる人ほど、自分のからだや心の変化をおざなりにしてしまいしがちですが、自分では元気だと思っていても、いつのまにか「気」が目減りして、気づいたときには体調を崩していた……ということも起きてしまうかもしれません。
「忙しく、ストレスフルな毎日を送っている人は、どうしても『気』が滞りがちです。少しずつでもいいので、からだを動かしてみたり、仕事の合間に呼吸を意識したり、『気』を意識することを習慣にしていくといいですね」と石原先生。
気持ちだけ、からだだけではなく、両方がセットになって初めて本当の「元気」はつくられます。そのためには、まず「気」が滞っているサインに気づくことが何より大切。自分のからだと心を日頃からよく観察することが「元気」につながります。日頃の生活から「気」をめぐらせて、いつも堂々と「元気」だと言いたいですね!
監修:石原新菜(イシハラクリニック副院長・日本東洋医学会会員)
取材・文:秦レンナ
イラスト:ナガタニサキ
編集:石澤萌(sou)、野村由芽(me and you)