今日からできる「養生」のススメ。めぐりをよくする飲み物・食べ物って?
からだをさまざまにめぐらせ、自分自身を大切にしながら暮らしていくための場所
からだが、めぐる
旬の食材を食事に取り入れたり、寒いから温かいドリンクを飲んだりと、季節や体調の移り変わりに応じて、私たちは自然と食べるものや飲むものを選んでいます。東洋医学でも「人は自然の一部である」という考えがあり、季節の変化や自分のからだの状態に合わせて何を食べ、何を飲むかが、からだをめぐらせ、健康を維持する上でとても大切にされています。これは「食養生」と呼ばれ、日々の生活に気軽に取り入れることができます。
食養生は、続けることが肝心。ゆるやかにでも、自分のからだに意識を向け続けてほしい。そんな想いから「ゆる養生」を提唱する漢方専門家の櫻井大典先生は、無理なく続けられる養生のコツや漢方の知恵をSNSなどで発信しています。今回は櫻井先生に、私たちのからだと季節の関係について、また、食養生の中でも取り入れやすい飲み物でからだのめぐりにアプローチする方法を教えていただきました!
からだをめぐらせる「気・血・水」って?
漢方では、からだは「気(き)・血(けつ)・水(すい)」の三要素によって成り立っていると考えられています。この三要素が互いにバランスを取り合いながら、過不足なく全身をめぐっていることで、私たちの健康は維持されているのです。まずは、「気・血・水」それぞれの役割をみていきましょう。
【気(き)】
胃腸を動かす、からだを温める、しゃべる……など、からだの活動に必要なエネルギー。「気」のめぐりが悪化すると、喉が詰まる、咳が出るといった呼吸器系の不調や、お腹が張る、イライラ、気分の落ち込みなどの症状があらわれます。これを「気滞(きたい)」といい、主に精神的なストレスなどによってもたらされます。
【血(けつ)】
いわゆる“血液”を指し、血管内を流れる赤い液体のこと。「気」とともに全身に酸素や栄養素を運び、各部へうるおいを与えます。精神安定にも深く関与しており、「血」が十分にあることで睡眠の質が良くなると言われています。「血」のめぐりは「気」の影響を受けやすく、ストレスによって滞りやすくなります。ほかにも、油の多い食事によって血液がドロドロになったり、冷えによって血が流れにくくなったりすることも「血」のめぐりを悪くする原因に。そうした状態を「血瘀(けつお)」と呼び、生理痛や下腹部痛、肩こりや冷え、クマ、シミなどの症状が出やすくなります。
【水(すい)】
血液以外のからだの水分「津液(しんえき)」を指し、肌や関節、臓器など全身にうるおいを与えます。不足するとからだに熱がこもり、乾燥や火照り、のぼせなどの症状が出やすくなります。逆に、水分のとりすぎで体内に余分な「水」が増えると、冷えやむくみが出やすくなるほか、倦怠感につながることも。こうした水のめぐりが悪い状態を「痰飲(たんいん)」と呼びます。
櫻井先生:「気・血・水」のバランスが崩れると、からだだけでなく、精神面にも不調が起こりやすくなります。最近、なんだか疲れやすい、イライラする、気分が落ち込む……など、気になる症状がある人は、めぐりの状態に目を向けてみるといいかもしれません。
季節にあわせて変化するからだと、ぴったりの養生
櫻井先生によると、「気・血・水」のめぐりの状態は、季節の変化に影響を受けやすいのだとか。
櫻井先生:東洋医学では、「人は自然の一部」と考えます。私たちのからだも自然のルールに則って、季節の移り変わりに影響を受けながら変化しているのです。自然の流れにうまく乗って生活することで、心地よく健康な状態を保つことを「養生」といい、からだのめぐりをよくすることにもつながります。それぞれの季節ごとにぴったりの養生法があるので、ぜひ試してみてくださいね。
春の養生
春は芽吹きの季節。私たち人間も開放的に活動するのがいいとされる時期です。ただし、過剰なエネルギーがイライラやソワソワに変わり、精神が不安定になることも。できるだけリラックスして過ごせるように、からだを締め付けない下着や服を選ぶ、髪の毛をきつくまとめない、また、「気」のめぐりをよくする柑橘類を積極的に摂ることをおすすめします。
夏の養生
夏は芽吹いた草木や葉がどんどん生い茂る季節。人にとっても同じで、汗をかき、活動を広げていくといい時期です。暑さで心身に熱がこもりやすくなるため、熱を冷まして余分な水分を外に出す働きがあるトマトやキュウリ、スイカなどの夏野菜を積極的に食べるといいでしょう。ただし、胃腸の負担になるので、常温で食べるよう心がけましょう。
秋の養生
秋は木々の葉が落ちて、収束に向かう季節。植物は栄養を根や実に蓄え、収穫を得る時期でもあります。人の場合、これまでの成果に満足したり、それを発表したりするタイミングと言えるでしょう。ただ、秋は乾燥からうるおいが不足しがちでもあります。からだをうるおす働きを持った甘酸っぱい味のものや、梨、白菜、白きくらげといった白い食材を摂るようにしましょう。
冬の養生
冬は、秋に収穫した成果を大切にしながら、できるだけエネルギーを消耗しないよう「現状を維持する」ことを意識する季節。寒さで冷えやすい時期なので、温めることが大切です。とはいえ、温かい飲み物をたくさん飲んで暖を取るのは禁物。水分の摂りすぎは逆に冷えにつながるので、運動やネギ、ショウガ、ニンニクなどの食材を使った食事でからだを温めましょう。
からだのめぐりをよくするためには、胃腸を守ることがポイントに
漢方では、「気・血・水」のめぐりをよくするために、「肝・心・脾・肺・腎」という「五臓」が働いていると考えられています。なかでも「脾」(胃腸)は、重要な臓器だと櫻井先生は教えてくれました。
櫻井先生:食べたものは胃腸へ運ばれ、そこからエネルギーや栄養や水分が体内へと運ばれていくことからわかるように、「気・血・水」は胃腸でつくられています。当然、胃腸が弱ってしまうと、からだのめぐりは悪くなります。からだのめぐりをよくするには、胃腸を守ることがポイントになるんです。
では、胃腸を守るためには、どのようなことを意識したらよいのでしょうか?
「温める」より「冷やさない」を意識
冷えは胃腸の大敵。人間は体内温度が37〜38度のときに、酵素や腸内細菌がもっとも活発に働くと言われています。運動や入浴でからだを「温める」ことは大切ですが、人によっては温め過ぎにより、火照りやイライラなどの不調につながってしまう場合も。まずは、今以上に「冷やさない」ことを意識しましょう。そのためには、胃腸に負担をかける冷たい食べ物、飲み物はなるべく避けること。刺身やサラダなどの生物や冷たい麺類、アイスクリームなどの乳製品などは要注意です。一般的に「胃腸にやさしい」を言われているヨーグルトも、冷たいまま食べてしまうと、胃の消化力を落としてしまいます。また、夏場でも飲み物の温度は、最低14度〜16度を目安にしましょう(冷蔵庫で冷やした麦茶は5度程度)。
日々の食事に旬の食材を取り入れる
私たちのからだは、髪の毛一本、血液一滴、すべて食べたものからできています。中でも食養生では、気候風土の合った土地で取れる食材や、季節に合った旬のものを食べることを大切にします。旬のものは、その時期を快適に過ごすための力がたっぷり詰まった自然からの贈り物。一方で、胃腸に負担をかける油っこくて味の濃いものや、甘いものはできるだけ避けるのがよいとされます。
水分の摂りすぎに注意
美容やダイエットの観点から水を1日に何リットルも飲むといった水分の過剰摂取は胃腸を弱らせ、からだのめぐりをアンバランスにします。本来、水分は食事から補給するのが理想的です。1日2〜3回、ご飯と味噌汁、野菜を取り入れた食事をしていれば、それだけで水分はしっかり摂れています。その上で足りない水分を飲み物で補うようにしましょう。ポイントは、喉が渇いたら一口ずつ飲むこと。そして、甘くないもの、人工的な添加物の入っていないもの、過剰に冷たくないものを選びましょう。
まずは飲み物から食養生をはじめよう。状態別おすすめドリンク
「オフィスや自宅などで普段何気なく飲んでいるものを、からだの状態や、暑さ、寒さなど気候に合わせて選んでみる。それも立派な食養生のひとつ」だと櫻井先生は言います。毎日の食事を変えるのはなかなか難しくても、飲み物なら気軽に取り入れることができそうです。
櫻井先生:例えば、夏はこもった熱を冷まし、からだをスッキリさせる効能のある緑茶をおすすめします。夏バテなどで食欲が落ちている人、ぐったりしている人には甘酒がおすすめです。甘酒はからだに滋養を与え、エネルギーも補給できます。ただし、夏バテの原因の多くは冷たいものの取り過ぎによる胃腸の弱り。かと言って、暑い時期は温かいものを飲みづらいですよね。夏場の水分補給は、涼しい部屋で温かいものを飲むことを意識してみましょう。秋から冬にかけては、紅茶を。からだを温める性質があると同時に、うるおす効果もあります。同じくからだを温めてくれるコーヒーもよいでしょう。
さらに、自分のからだの状態に合わせて飲み物を選んでみると、不調のお悩み改善にもつながります。
気のめぐりが悪い「気滞(きたい)」気味の人
気が滞っていると、イライラしたり落ち込んだりと視野が狭くなりがちです。そこでおすすめしたいのは柑橘類を絞った飲み物、ジャスミン茶、ハーブティーなど香り高いお茶です。いい香りは気をそらす効果があり、「気」のめぐりをよくすると言われています。
血のめぐりが悪い「血瘀(けつお)」気味の人
血のめぐりが滞っている「血瘀」の人は、からだを冷やさないことが大切です。紅茶やバラ科の玫瑰花(まいかいか)のお茶は、からだを冷やさず、血流改善の効果も期待できます。
水のめぐりが悪い「痰飲(たんいん)」気味の人
からだにいらない水分は、むくみやめまいなどを引き起こす要因に。余分な水分を排出する効果のある、ハトムギ茶やプーアル茶、緑茶、とうもろこしのひげ茶などがおすすめです。また、豆類は水はけをよくしてくれる効能があり、黒豆茶やあずき茶もいいでしょう。
ゆる養生で、からだを心地よくめぐらせて
「養生は、続けないと意味がない」と櫻井先生。そこで提案しているのが、無理なく、気軽にできる“ゆる養生”です。
櫻井先生:あれこれルールを決めるよりも、まずは、氷の入った飲み物を避けるとか、昨日よりも10分早く寝るとか、スクワットを10回やってみるとか、昨日よりプラスになることを1つやってみる。それがそのうち当たり前になっていくような、無理のないことが理想です。
そして何より大切なのが、日々、自分の体調に意識を向けるということ。漢方相談では、「食欲はありますか?」「毎日便通はありますか?」「ちゃんと眠れていますか?」の3つを必ず尋ねるようにしています。これは健康の基本。どこかに不調があれば、からだのめぐりも悪くなっているということです。
「健全な精神は健全なからだに宿る」というように、からだと心はつながっています。いま、なんとなく心身の滞りを感じているなら、まずは自分のからだをつくる毎日の食事、そして飲み物を見直してみることが、心地よい日々への一歩となるでしょう。
監修:櫻井大典
取材・文:秦レンナ
イラスト:タカヤユリエ
編集:石澤萌(sou)