CHiNPAN・藤本夏樹が工夫する、家族関係と創作環境の心地いい形
あの人とめぐる。心も身体もめぐる場所
vol.3
こころやからだがめぐる、とはどんな状態なのでしょう? 場所やまわりの人との関係性、自分のライフスタイル、様々なものが偶発的にめぐり合って、こころやからだの動きを作っていくのではないでしょうか。
一人の時間と、他者や社会とかかわる時間を往復するなかで、心や体に無理のない状態の自分でいられる。そんな「めぐり」を感じる場所として、水墨画アーティストのCHiNPANさんと、Tempalayのドラマーであり、ソロ名義でも活動するミュージシャンの藤本夏樹さんが紹介してくれたのは、代々木公園からほど近いビーガンカフェ、THE NUTS EXCHANGE。
取材中も偶然お店を訪れた友人と挨拶を交わしていたように、この街で知り合った人たちがたくさんいるというお二人。THE NUTS EXCHANGEと、拠点を置くこの街の、どのような部分に魅かれているのでしょうか。また、普段はあまり遠出することがないというお二人が、この秋訪れたロサンゼルスとポートランドで得た発見や、パートナー、そしてお子さんを交えた家族として、それぞれの輪郭を尊重しながらも風通しの良い関係でいるために行っている工夫について、教えていただきました。
なるべくゴミを出さないビーガンカフェで。「ちょっとだけ心が楽になる」「そういうものが多分お互いに好き」
─お二人が「めぐり」を感じる場所としてTHE NUTS EXCHANGEを選ばれたのはどうしてですか。
CHiNPAN:このお店は湘南乃風の若旦那さんが、音楽家の大沢伸一さん、TORIBA COFFEEの鳥羽伸博さんとやっていて。若旦那さんは私たちの身近な友人なんですけど、お話しするなかで学ぶところがすごくあるんです。ここを始める前にもなるべくゴミを出さずにご飯をつくるというコンセプトを聞いて、感銘を受けました。
藤本:「めぐり」というテーマを聞いていくつか思い浮かんだ場所があったんですけど、このお店は内装に廃材を使ってリビルドしていたりするし、コンセプトと合っていると思いました。
CHiNPAN:ちょうどいま私の作品を展示しているんですけど(※取材時。現在は終了しています)、私の作品も端材の額縁を使っていて。たまたまお店のコンセプトとも合っていたんです。
─CHiNPANさんが端材の額縁を使って作品をつくろうと思ったのはどうしてだったんですか?
CHiNPAN:二人で清澄白河の方にタトゥーを入れに行ったときに、相手を待っている間暇で。街をぶらぶら歩いていたら、たまたま見つけた額屋さんで、端材でつくった小さな額縁を売っていたんです。ちょうどその時期に個展を控えていたので、これで何かできないかなと思い付いたところから始まりました。
いま、掛け軸の表装を習っているんですけど、掛け軸って水で剥がせる糊を使っているから、実はリサイクル可能で、剥がして仕立て直せるんです。作品をつくるうえで、「ものを増やしている」という意識があって、それを自分の中で消化するうえで掛け軸はかなりフィットしているんですけど、端材の額縁にも同じような感覚があったんです。
─ものを増やしていることに引っ掛かりを覚えるようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
CHiNPAN:どうしてかは分からないけど、小さい頃から作品をつくるときにずっとそう思っていたんです。思い入れがある作品でもただストックしているのは結構ストレスで。作品が誰かの手に渡って飾ってもらえたり、あまり場所をとらなかったり、また違う形に還れたり、そういうことがあると、ちょっとだけ心が楽になるんです。
─生活するうえでもそうした意識はありますか?
藤本:本当に基本的なことですけど、同じ役割でゴミを出すものと出さないものがあったら、出さない方を選びます。プラカップのアイスコーヒーと、再生可能な紙カップのアイスコーヒーとでは、もしも中身が同じだったとしても、後者の方が自分はおいしく感じるし、気持ち良く飲めるんですよね。そういうものが多分お互いに好きなんです。
CHiNPAN:そんなに気負っているわけではなく、例えばタンブラーを使った方がかわいいしあったかくて好きっていうシンプルな気持ちで選んでいたりもしますね。
「(今いる街は)個人店を愛している人や馴染みの店を持っている人が多い」(CHiNPAN)
─額屋さんには偶然出会われたそうですが、普段からふらっとお店に入ったりされるんですか?
CHiNPAN:全然しないです。
藤本:基本的にいつも過ごしている街から出ないんです(笑)。
─この街が好きなんですね。THE NUTS EXCHANGEさんのあるこのエリアにお二人の作業場もあるそうですが、この街のどんなところが魅力的だと感じていますか?
CHiNPAN:最近行ったポートランドでも同じことを感じたんですけど、個人店がすごく多いんです。もちろんチェーン店もあるし、自分も行きますけど、個人店を愛している人や馴染みの店を持っている人が多いように思います。
藤本:ポートランドはチェーン店が見当たらなくて、コンビニすら個人店でした。このあたりにはポートランドのカルチャーに影響を受けている珈琲屋さんもあったりして。
CHiNPAN:チェーン店ですら、店長こだわりのオリジナルメニューが定期的に出てきたりね。街での人との出会いも結構あるんですけど、知り合ってから1年や2年、何をしている人なのか知らないこともあるんです。職業とか肩書きとか、何者かを言わなくても済む感じも心地良くて。
藤本:ギラギラしてる人があんまりいないよね。
─お二人は自分のいる街にかかわろうという意識が強いですか?
CHiNPAN:私はすごくある。
藤本:自分はまったくなくて。連れ出されていろんなお店に行くようになったんです。
CHiNPAN:最初はすごく嫌がってました(笑)。
藤本:外に出るのが嫌だし、誰かに会って喋るのも嫌でした(笑)。でも知り合いが増えていくと楽しくなってきて。最近はどこに行っても知っている人ばかりだから話しやすいです。
最近、ポートランドとロサンゼルスの旅へ。自分たちと子どもの将来のために、活動を海外に広げたい
─ポートランドのほかロサンゼルスにも行かれていたそうですが、基本的にはいつもいる街から出ないというお話があったじゃないですか。旅もあまり好きではないですか?
CHiNPAN:むしろ嫌いです(笑)。一泊の旅行でも超ストレスで。
藤本:今回も行く前まで辛そうだったよね。大丈夫かなって心配してた。
CHiNPAN:でも今回の旅で、旅先でも暮らしをルーティーン化すると気が休まると気づいたんです。普段の生活でも、朝コーヒー屋に行って、仕事とかいろいろして、子どもを保育園に迎えに行って、スーパーに行って……みたいなルーティーンを日々繰り返していて。ロサンゼルスにいる間も、生活がかなりルーティン化されていたから、心の安定がだいぶ保たれていたし、ポートランドもその延長で楽しめたんです。
藤本:俺も普段はルーティーン化しているけど、旅に行ったときは旅のテンションで遅くまで酒を飲んで翌朝全然起きない、みたいなこともそれはそれで楽しいと思っている方ですね。
CHiNPAN:私ももともとそういう楽しみ方をしていた方なんだけど、実はそれがめちゃめちゃストレスだって気づいて。夜遊びも好きだからするけど、翌日もちゃんと何かしたい。だから多分観光ができないし、旅先でもその場所で暮らすように過ごすのが向いてるんだと思います。
─それなのに、どうしてロサンゼルスとポートランドに行ってみようと思ったんですか?
藤本:コロナ禍以降、活動を海外に広げていきたい気持ちがお互いにあったんですけど、たまたまいつも行くお店で知り合った方がポートランドに住んでいて。「よかったら遊びに来て」と言ってくれたので、とりあえず行くことにしたんです。
CHiNPAN:彼女はダンサーだけど、イベントをやったりしているので、展示やライブをブッキングしてくれて。それ以外はほぼノープランでしたね。
─お二人が活動を海外に広げたいと思ったのはどうしてですか?
CHiNPAN:私はやっぱり外に出たくなかったし、日本での活動にずっと満足していたんです。でも子どもができて、コロナ禍で一緒に過ごしているなかで、日本しか知らずに育てるのは、私も彼女もしんどいなと思って。いろんな世界を知ったうえで日本に住みたいと彼女が思うのはいいけど、「日本だけでいいか」と私が思っていたら、彼女の可能性を狭めちゃうと思ったんです。だったら仕事があったほうが海外にも行きやすくなるし。
藤本:俺も子どもにいろんな景色を見せてあげたいし、自分もあまり海外に行ったことがなかったから、見てみたいという気持ちが大前提としてあって。そもそもヨーロッパの音楽に好きなものが多いから、自分の好きなアーティストや、ヨーロッパの人に自分の音楽を聴いてほしい気持ちがありました。でっかいステージに立ったり、有名になるのも大事なことだけど、自分の好きな人に「君の音楽いいね」って言われるだけで超幸せになれる。そういう「いいね」をもらうために、できることを始めたいと思ったんです。
ポートランドでイベントをやったときに好きなアーティストにDMしてみたら、すごく小さなイベントなのに来てくれて。「次にポートランドに来たらスタジオに遊びに来て、機材とか貸してあげるよ」って言ってくれてすごく嬉しかったし、こういう喜びが欲しかったんだなと思いました。
CHiNPAN:現地の情勢やアートについても、行ってみないと分からないことがたくさんあったし、行ってみてよかったね。
藤本:行くまでは何をすればいいかまったく分かっていなかったけれど、とりあえず次につなげられるようにと思って現地に行ってみたら、意外といろんな人が助けてくれて。次に行ったときは、ライブ2、3本ならできるような状態をつくってこれたので、実際に行くことってすごく大事だなと思いました。
「どこの家庭でもできるとは思わないけど、できるだけ役割を分担して、負荷が一緒になるようにしています」(藤本)
─お二人それぞれに心地よいと感じる状態があると思いますが、一緒にいるうえで、あるいはご家族揃って心地よい関係をつくるために心がけていることはありますか。
CHiNPAN:毎朝、子どもを保育園に送ってから近所のコーヒー屋さんに寄って、二人で使っている作業場に着くまでコーヒーを飲むんです。その間無言のこともあれば、会話をすることもあるんですけど、素の状態で他愛のないことを話すのは結構大事な時間だなと思っています。
藤本:うん、確かにそうだね。毎日二人で子どもを保育園に送っているし、一緒に過ごす時間が結構あって。どこの家庭でもできるとは思わないけど、できるだけ役割を分担して、負荷が一緒になるようにしています。
─具体的にどうやって役割を分けていますか?
CiNPAN:結構ちゃんと決めていて。例えば昼間の洗い物は私がやる。ゴミ捨ては特に決まってないけど、基本やってくれます。
藤本:夜にご飯をつくってくれるから、その間に自分が洗濯をしたり。保育園に送るのもどちらか1人でもできなくないんですけど、一緒に行くことにしているんです。万が一、自分が二日酔いで行けなかったりすると「本当にごめん!」って。基本的には「行かなきゃいけないもの」っていうことにしています。
─いい関係でいるために、生活の中の役割分担について曖昧にしておかない方がいいという共通認識がお二人の中でありますか?
CHiNPAN:そっちの方が絶対に楽だと思います。気を使いあったり、「なんとなくこうかなあ」とか考えたり、逆に見て見ぬ振りをしたりもしなくてすむし。
藤本:毎回考えて行動するより、システムにしちゃった方が楽だよね。「システム」っていうとなんか冷たい感じですけど(笑)。一対一の関係と違って、三人になると集団じゃないですか。二人プラス小さな子どもが1人いるなかでは、ある程度システムをつくってしまわないと、プラスアルファでイレギュラーなことが起きたときに対応できなくなっちゃう。それよりもやっぱり子どもと一緒に何かしたりする方にいっぱい時間を使いたいし。
CHiNPAN:よく考えたら二人きりになったことがないんですよ。付き合いだした頃に私が飼っていたワンちゃんが老犬だったので、病気とかイレギュラーなことがいろいろ起きて。そのなかでシステムをつくっていった感じでした。
─お二人で使っている作業場について、ご自宅と分けられたのは何かきっかけがあったんですか?
藤本:単純に子どもが小さすぎて自分の機材を触っちゃったりするから家と分けることにしたんです。家で作業できないから、制限された時間の中で集中しなきゃいけない環境が逆にいいかもと思ってます。
CHiNPAN:基本的に仕事はほぼ家に持ち帰らないですね。
─お子さんが産まれてから、生活リズムにも変化はありましたか?
藤本:子どもによる変化なのか、コロナ禍による変化なのか分からないけど、確実にだいぶ変化しました。
CHiNPAN:10か月になるくらいまでは、子どもも夜泣きとかで深夜まで起きていたりしたから、意外と生活リズムが変わらなかった気がします。コロナの影響の方が大きかったかも。深夜に仕事をしなくなりました。
─その変化にはスムーズに対応できましたか?
藤本:移行自体はスムーズだったと思います。割と当たり前に、「もうこの生活を変えたほうがいいよね」って。
CHiNPAN:コロナ禍になってからイレギュラーな状況を楽しもうとしていたところはあるかもしれない。あえて朝起きてラジオ体操してみたり。そうじゃないとやっぱり落ち込んじゃうから、意識的にやっていたかもしれないですね。
藤本:人と会う機会が明らかに減って、これまで飲み会とかで生まれていた繋がりがなくなったとは感じているので、そのギャップをどう埋めていくかはいま考えているところですね。前みたいに飲み会に行ったりしなくても、きっとほかのやり方があるはずで。やっぱり人と会って話すと脳が活性化するし、情報も得やすいから、そういう場を探していかないといけないなと思っていますね。
─「以前のやり方ができなくなった」という方にフォーカスするとしんどくなってしまうかもしれないけれど、お二人ともその時々の状況なりのやり方でやっていくということに意識的であるように思いました。
藤本:子育てはもちろんきついこともありますけど、基本的にはポジティブに見えるようでいたいんです。単純に俺はそれがかっこいいと思っているという美学なのかもしれません。
私は人に弱いところを見せられないのを課題に感じてもいるけど、基本的には辛いことがあっても、それすら面白く考えていこうぜという感覚があって、そういうところは割と価値観が似ているのかも。辛いことがあったときに、それを気楽に乗り越えられているわけではないけど、結果的に「あー、面白かったな」って思いたい。物事を重々しくとらえすぎないというのはずっとテーマにしている気がします。
お互いのセルフケアについても一緒に話しながら、調子良くいられるように
─MEGLYについても伺えたらと思います。お二人でCMに出演されましたが、実際に普段使用されていますか?
CHiNPAN:めちゃめちゃ使ってます! 事務所と自宅に置いてあるんですけど、かなり愛用していて。
藤本:気持ちいいし匂いが良いんですよね。ベタベタする化粧水ってあんまり好きじゃないんですけど、バーっとかけて終わりでいいし。あの感覚は俺の言語能力じゃちょっと説明できない(笑)。「ただのミストじゃないぞ!」っていう感じです。
─どういうタイミングで使われていますか?
CHiNPAN:夏は特によくリフレッシュで使ってましたね。顔にかけるとすっきりした気分になるし。
藤本:お風呂上りの化粧水をつけるときだけじゃなくて、作業をしてて、顔を洗いたくなるタイミングでささーっとかけるとマジで気持ちいいです。
─普段からスキンケアも含めたセルフケアについて二人でお話されることはありますか?
CHiNPAN:めちゃめちゃします。
藤本:好きだもんね。俺は胃腸が弱いので、お腹を壊しづらい整腸剤を教えてもらったり。
CHiNPAN:化粧品とかについて、情報や成分を調べたり、論文を探したりするのが趣味なんです。
─ご自身の体の状態にも敏感に気を配っている方ですか?
CHiNPAN:もともと体が弱いから、私は結構気にしています。
藤本:体調が悪いと何もやる気がなくなっちゃうので、そうならないようにはしています。でもハンバーガーとかも好きだから、身を滅ぼすと分かっていながらコーラを飲んでハンバーガーを食べることもあります(笑)。
CHiNPAN:基本的に家では割と粗食ですけど、ビーガンのメニューを食べることもあれば、ハンバーガーを食べることもありますし。
藤本:若旦那さんが、中華やイタリアンと同じような選択肢の一つとしてビーガンがあればいいと思っていると言っていて。その意見は俺も分かるなと思ったんです。人の体ってすごいから、「今日はなんだか酸っぱいものを食べたい」とか感じるじゃないですか。「今日は肉じゃないな」っていう気分の日は野菜だけにしたらいいし。前よりも敏感に自分が欲しているものが分かるようになってきたから、常に行ったり来たりではありますけど、調子良くいられればいいなと思っています。
取材・文:松井友里
撮影:タケシタトモヒロ
編集:野村由芽(me and you)