地球温暖化問題を正しく知って、行動する。小谷実由×江守正多
地球環境に今、何が起こってる?
vol.1
ここ数年で盛んに語られるようになった地球温暖化の問題。日本でも「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」という目標が掲げられていますが、実際に今地球はどんな状況なのか、あと30年ほどで私たちはいったい何ができるのか、もやもやしたり、疑問を持ったりしている人も多いのではないでしょうか。今回は、「地球に今何が起こってる?」と題して、さまざまな環境問題にまつわるモヤモヤを掘り下げていくシリーズの第1回目です。初回は、地球温暖化に関心を寄せながらも、みなさんと同じようにたくさんの疑問を持っているモデル・文筆家の小谷実由さんが登場。国立環境研究所地球システム領域で地球温暖化を研究し、書籍やYouTubeでもわかりやすく温暖化問題を解説している江守正多博士に地球温暖化の基礎知識を教えてもらいながら、一人ひとりが地球温暖化を知り、意見を持つことの大切さを伺いました。
Q. 今、問題になっている「地球環境問題」の基本を教えてください
A. 人間活動が主な原因で地球の温度が長期的に上がっている傾向のこと
ーまず、小谷さんは「地球温暖化」と聞くと、どんなことを考えますか?
小谷:私は地球温暖化問題に対してのアクションに楽しく挑戦してみようとは思っているのですが、まだ心の奥底では「我慢してる感」があるということに気づきました。環境問題に限らず、何かメッセージを持って発信していくことって、すごく勇気がいる行動なので慎重になってしまう部分もあって。でも、そうこうしている間に時間は過ぎて、地球環境も悪化してしまうし……。「どうしたらいいの?江守先生!」って感じです。
ー今日は江守先生に地球温暖化の基本からお伺いしていきましょう。そもそも今問題になっている地球温暖化とはなんなのでしょう?
江守:地球温暖化は、人間活動が主な原因で地球の温度が長期的に上がっている傾向のことです。人間活動の何が原因なのか?と言うと、いちばん大きいのはCO2(二酸化炭素)。コスメや炭酸飲料に入っているもの、人間が吐く息に含まれているCO2の量はたかが知れているのですが、エネルギーをつくるときに排出されるCO2が大きな問題になっています。
ーエネルギーをつくるときというと?
江守:つまり石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料です。これらを燃やして発電したり、ガソリンを燃やして車を動かしたりする人間活動が、大気に大量のCO2を注入している。それによって大気の温室効果が強まっているわけです。
ー「温室効果」という言葉もよく聞きますが、それが強まると何が地球に悪いのでしょう?
江守:まず、地球からは宇宙に向かって「赤外線」というかたちで熱が放出されているんです。そうじゃないと地球は太陽からエネルギーをもらうばかりで、どんどん暖かくなっていくはずですよね。地球も赤外線を放出しているので、地球の温度は長い間一定だったんだけれど、大気中にCO2をはじめとする「温室効果ガス」が増えていくと、赤外線が宇宙に逃げにくくなって地球全体に熱が溜まってきてしまうんです。つまり、人間が化石燃料を使うのをやめてCO2排出量を減らさなければ、さらにこのまま気温上昇が続いていくことが明らかである、ということです。
Q. 地球温暖化の原因は「人間活動」であることに罪悪感を覚えます
A. 人間自体が否定されているわけじゃなく、社会の仕組みをつくり直しましょうという話なんです
小谷:地球の気温が上がるのはCO2が原因だということはなんとなくわかっていましたが、それがなぜなのかまでは理解していませんでした。「喋っているだけでCO2が出るから、喋らないほうがいいということ……?」といった、手前のことばかり気にして考えが止まっていましたが、メカニズムを知ることでその先を考えるヒントになりますね。でも、地球温暖化の原因である人間活動をしないと私たちは生きられないし、なんだか罪悪感を覚えてしまいます。
江守:人間が何をしていても温暖化につながってしまうということではありません。ただし、最近の急速な温暖化は人間がやったことなんだよ、ということです。そして、そのなかでいちばん大きいのが「化石燃料の使用」。だから、太陽光発電や風力発電を利用したり、車を電気自動車などに置き換えたりして、化石燃料を使わずとも回っていく社会の仕組みをつくり直しましょうという話なので、人間自体が否定されているわけではないんですよ。
Q. 2050年の目標「CO2排出量実質ゼロ」「脱炭素社会」まであと30年。具体的にどんな目標なのですか?
A. 太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」を増やしていかなくてはいけないという状況です
ー「CO2排出量実質ゼロ」「脱炭素社会」という目標をよく耳にしますよね。
国や企業はその目標に向けてどういった行動をとっているのでしょう?
江守:日本では、2020年10月に菅元総理が「2050年に脱炭素社会を目指す」と宣言しました。「温室効果ガスの排出量を全体として0にする」という言い方をされていましたね。いちばん大きな取り組みとしては、やはりエネルギーの部分。2011年の福島第一原子力発電所事故のあと、日本の原発が一度すべて止まって、石炭・ガス火力発電が増えました。そこから今度は火力発電を減らして、太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」を増やしていかなくてはいけないという状況です。
ーやっぱりエネルギーについての取り組みが最優先なのですね。
江守:「エアコンの温度設定を控えめにしよう」などいわゆる「省エネ(省エネルギー)」という取り組みもありますよね。地球温暖化の観点で言うと、やらないよりやったほうがいいのですが、そもそもの話をすると、断熱効果のいい家をつくってエアコンを使う必要性自体を減らすとか、ガソリン車から電気自動車に切り換えるとか、根本的な対策が必要になってきます。今目指しているのは、それらすべてを含めてあと30年で脱炭素社会を達成することです。企業では事業に使っている電気を再生可能エネルギー(太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった温室効果ガスを排出しないエネルギーのこと)100%で調達する動きがあります。気候変動問題を解決するような製品やサービス、ビジネスの考え方が出てき始めましたし、再生可能エネルギーを使用していないと取引してくれない海外企業があったり、融資が受けられない場合もあったりしますね。ただ、やっぱり化石燃料の使用をゼロにするのは大変難しくて、すぐにはできないんです。
ーどういった部分が難しいのでしょう?
江守:たとえば、日本には優れたエンジンの部品をつくる工場がたくさんあります。すべて電気自動車に入れ替わったら、その工場で働いている方々は仕事がなくなり、別の仕事を探さなくてはいけなかったり、新しい技術の習得を迫られたりしてしまう。それらの問題を含めて、あと30年で目標達成しないといけないので、複雑な話ですよね。脱炭素に抵抗している方々がなぜ動けないのかを丁寧に解決していかないことには、目標達成もいいかたちで着地しないと考えています。
Q. とはいえ、今すぐには動けない……まず最初に、私たちは何をしたらいい?
A. 「CO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない」という認識を持つことが最初の一歩です
ー地球温暖化に対してなんとなくの問題意識は持っていながらも、やっぱりまだまだ個人でも企業でも、どういうふうに行動を変えていったらいいかわからないという方も多いと思うんです。今すぐには動けない方々への理解ということ含め、私たちは何をしたらいいのでしょう?
江守:まずは、「CO2排出量を実質ゼロにしなくてはならない」という認識を持つことが最初の一歩です。「脱炭素」って言葉はニュースで聞いたことあるけど、「30年でCO2排出量を実質ゼロにしなくちゃいけない」ということとイコールだとは知らない人もたくさんいらっしゃると思います。少し前まで、とくにビジネス業界では「できるわけないじゃないか。ビジネスを諦めろってことなのか」という傾向が強かった。今は内心そう思っているかもしれないけど、「少なくともやらないといけないことだ」と捉える人がすごく増えてきました。
ーでも、化石燃料が今の生活のインフラとして存在する以上、それを使わないとなるとやっぱり何か我慢しないといけないのかなと、ネガティブになってしまう部分もあります。今、再生可能エネルギーの問題があるとしたらどんなことでしょう?
江守:日本では森林伐採して太陽光パネルをたくさん並べるメガソーラーという太陽光発電が増えましたが、それによる環境破壊や土砂崩れの危険性、景観の問題などが出てきており反対運動も起きています。風力発電で使われる風車も鳥がぶつかるので生態系破壊と言われていて。さらに、再生可能エネルギーでつくった電気は高く売れるというルールができたのですが、高値になったぶん一般の利用者の電気代は上がるという歪みも出てきた。現在、見直されているところですが、そうやって都度ルールを修正しながら、変化が徐々に波及している途中なんです。決して「江戸時代の生活に戻れ」とかそういうことを言っているのではなく、脱炭素化って次の時代にいくことなんですよ。再生可能エネルギーを中心とした次の文明に、あと30年で移行しましょうという話。まずはそういう大きなストーリーを知ってほしいなと思っています。
Q. 変化を我慢や困難ではなく、ポジティブなものと捉えるにはどうしたらいい?
A. みんなが少しだけエコになることよりも、興味やきっかけを持った人が大胆に行動するにはどうしたらいいか考える
ー江守先生が、地球温暖化問題を中高生にもよくわかるように解説したYouTubeでは、2015年の世界市民会議の調査において「あなたにとって気候変動対策はどのようなものですか?」という質問に対し、海外では66%の人が「多くの場合、生活の質を高めるもの」との回答した一方、日本では60%の人が「多くの場合、生活の質を脅かすもの」と回答したとお話しされていました。変化は我慢や困難ではなく、より生きやすいかたちにつながるポジティブなものだという考え方にどうやったらシフトしていけると思いますか?
江守:現実的なことを言うと、日本の場合はほとんど外圧によっていつの間にか変化が起きるのではないかと思います。多くの日本人が負担だと思っているうちに、海外の常識が先に変わって政府が対策を取らざるをえなくなり、CO2が出ない世の中になっていくという可能性が高いんじゃないでしょうか。でもそれだと、日本がすごく不利な形で変わることになりそうだし、地球温暖化問題に興味を持つ方が少しでも増えることが、「いつの間にか常識が変わった」ということを早めると思っています。最近の調査でも他国と比べると「経済的には損になるよね、行動を変えるのは嫌だよね」という人の割合が日本は多い傾向です。それはそれで仕方がないので、みんなが少しだけエコになることよりも、興味やきっかけを持った人が大胆に行動するにはどうしたらいいのか、少しでも多くの人がきっかけを持つにはどんなメッセージを発信していけばいいのかと考えるのが大事かなと思います。
Q. 再生可能エネルギーを選びたいけど経済的負担が心配。注意点は?
A. 普段とあまり変わらない料金で再エネの電気を使用してみて、何か気になることがあれば元に戻していい
小谷:私は「簡単に再生可能エネルギーに変えられるからやってみよう」と軽やかな働きかけをしてくれている方の発信に好感を持ったことをきっかけに、温暖化問題に興味がわいて、ゆくゆくは家でも再生可能エネルギーを使いたいと思っているんです。でも、今まで当たり前に自分が使っていたものを急に変えることへの不安もあり、パッと切り替えられなくて。今までよりもコストがかかったり、続けること自体が難しいのかもしれないと思ったり、調べれば調べるほど情報に惑わされている状態です。
江守:いろんな情報があるから何を信じるか決めるまでは大変ですよね。再生可能エネルギー100%プランだと大手電力会社の料金よりも少し高くなると思いますが、100%ではないけれど従来より再生可能エネルギーが多いですよというプランにすると、むしろ安くなることがあります。気をつけていただきたいのは市場連動型のプラン。電力は市場で売買されているので、電力不足のときは高値、余剰しているときは安値になるんです。市場連動型で契約すると、電力不足の時に目玉が飛び出るくらいの電気代を請求されたという問題も起きています。それさえ気をつければ一度試しに切り替えてみるのもオススメです。普段とあまり変わらない料金で再エネの電気を使用することで、ちょっと気持ちが軽くなったなと感じていただけたらいいですし、何か気になることがあれば元に戻していい。それくらいでいいのではないかと僕は思っています。僕自身、今まで2回電力会社を変えていますよ。
小谷:江守先生も2回も切り替えられているんですね!さきほど江守先生がおっしゃったように、やらざるをえない状況になったら思い切れるのですが、私も「マンションが丸ごと再生可能エネルギー電力に切り替わってくれたらいいのに」とか「法律で決めてほしい」って思っちゃう部分があります。
江守:国が変わってくれたら個人が気にしなくてもいいというのは正しいですし、最終的にはそうならないといけないですね。再生可能エネルギーは料金がまだ高いうえに出力が変動するし、環境破壊になるかもしれないというところを考えるとネガティブな意見も出てきます。でも、一旦設備をつくってしまえば、燃料不要で壊れるまで発電できますし、災害時の電源としても役立ちます。地域単位で見ても、たとえばメガソーラーは都市部の業者が地方に設置して、お金も都市部に流れてしまっているのですが、地域住民が自分たちで再エネ発電をしてその地域の電気を賄い、余ったぶんを売ることができれば、地域経済にもプラスになります。住宅についても、気候変動対策に関係なくとも断熱効果の高い家に住むだけで冬も快適に過ごせますし、そう考えれば気候変動対策に対してポジティブな意見を持つこともできるのかなと思います。「気候変動対策って我慢じゃないんだ」と理解することが少しずつ広がっていくのが大事ですね。
Q. 果たして個人の行動はどのくらい効果があるのでしょうか?
A. 意見を持ちメッセージのある行動をする人が増えることで、大きな動きの後押しになると思っています
小谷:私はまだ特別何か新しいことはできていませんが、「我慢してやらなければいけない」ではなく、「いいことがある」とポジティブにいろんなことに取り組んでいきたいです。「みんながやってるから私もやってみよう」と思えるのってすごくいいことだと思うし、私の行動がきっかけで誰かがそう思ってくれたら嬉しいのですが、果たして個人の行動はどのくらい効果があるのだろうか?というところまでは、まだ理解が深められていなくて。私も含め多くの人がなんとなくやっている部分が多いと思いますし、それをもう少し深められたら普段の意識がより強固になるんじゃないかと感じました。
残糸からつくられているニットブランドの服を選ぶ小谷実由さん
江守:個人の行動の効果は実感がなくて当たり前だと思うんです。僕もエコバッグを持ったり、電気をこまめに消したりはしていますが、はっきり申し上げると、これだけだと目標に対してはまったく進んではいません。CO2排出量ゼロを目指すにあたって、まずは2030年までに46%減らしましょうということになったのですが、そのうち人々がCO2を出さないように気をつけて生活して減るのってせいぜい0.数%〜数%なんです。しかも、温暖化について意識して生活している人ばかりじゃないし、新しい石炭発電所が建ったりしたら、気をつけて生活したぶんも簡単に打ち消されてしまいます。
ーつまり個人単位でできることは実質ないのでしょうか?
江守:直接的な効果ではないけれど、どうやったら再生可能エネルギーを増やすことにつながる行動ができるか、それを後押しすることができるかを考えることは個人によるものです。企業や研究者が生み出す新しい技術を個人がどうこうするのは難しいですが、僕は「化石燃料を減らさないといけないし、そのためにはいろいろな問題をクリアしながら再生可能エネルギーを増やしていかなくてはならない」という意見を持つ人が増えたらいいなと思っています。そして、友達と温暖化や環境問題の話になったら「自分は再生可能エネルギーに賛成なんだけど」と話してみたり、最近だと地方自治体の選挙で太陽光発電をどうするかという話が焦点になることもあるので、候補者の意見を聞いて考えてみたりしてほしい。意見を持ちメッセージのある行動をする人が増えることで、大きな動きの後押しになると思っています。
小谷:実際にどうしたらいいんだろうとずっと思っていましたが、江守先生のお話を伺って、選挙の投票時に気候変動対策の観点から判断してみたり、CO2削減に取り組んでいる会社の商品を買ってみるなど、一人ひとりができることの選択肢が増えたような気がします。今日はありがとうございました!
インタビュー・文:飯嶋藍子
イラスト:中村桃子
編集:野村由芽(me and you)