ermhoiの思考の緩め方。音楽仲間や『フレンズ』から学んだこと
ermhoiコラム連載「こころがめぐり、おどる、カルチャー」
vol.3
自分の思考のクセを分析してみたり、自分がどんな人間かを考え直してみたり。学校や仕事、日々の生活で起こるできごとについて考えるだけでなく、時にはじっくり自分と対話する時間も訪れることでしょう。考えることも大事だけれど、サウナの時の外気浴のように自分のなかに新たな風を吹かせて思考を緩めてみることが、めぐりを促すのではないでしょうか。
この連載『こころがめぐり、おどる、カルチャー』では、ソロをはじめ、Black Boboiやmillennium paradeなど多様なかたちで音楽表現を行うミュージシャンのermhoiさんが、その時々のこころに寄りそいながら、めぐりをうながしてくれるカルチャーを紹介。第3回目の今回は、最近一気見した海外ドラマ『フレンズ』と自分を重ねたことで見えた人間のめぐり、そして、11月に開催した東名阪の自主企画ツアーで考え続けた「自分への疑い」について綴りながら、その疑いや思考をリフレッシュさせてくれた仲間たちの音楽を紹介いただきました。
ドラマ『フレンズ』に見た完璧じゃない人間の可愛らしさ
I’m binge-watching “Friends”.
『フレンズ』を一気見してる。
コロナが流行すると同時に何度も聞いた言葉。天邪鬼の私は注目を浴びているものにはすぐに飛びつかない。かといって全く触れないわけではなく、流行りが落ち着いた頃に結局どハマったりするのだ。『フレンズ』もそのひとつだった。題名からして素敵な人間関係の軽快なコメディ、そういったクリーンな世界観はもともと興味がなく、クライム系とか悪夢系とかダークコメディとかそういうのばっかり見てきた自分がまさか『フレンズ』にハマるとは思っていなかった。今、『フレンズ』を一気見しているのである。
何がいいかって、人間のぎこちなくて、わがままで、キテレツな部分を非常に可愛らしく描いているところ。なんだか人類愛みたいなすごくフワッとしたあったかい気持ちをもらえる。トラウマとか裏切りとかネガティブワードもたまに出てくるけど、日々を生きてくって大なり小なり問題を抱えた人たちと関わっていくことだ。毎日が完璧な人はいないけど、俯瞰してみたら少しだけでも軽くなれるんだな、とドラマと自分を重ねてみると感じられる。気がする。そういう方法で思考を緩めるのも大事だと思う。生きるのが下手くそな人たちが幸せになる瞬間を見るのは心地いいものだ。
自主企画ツアーで持てた自信。バンドメンバーからもらった安心感
言い訳がましいが、『フレンズ』を見て頭を緩ませていたのにはある理由がある。人生2回目の自主企画ツアー「The Attention Please with ermhoi」が私の頭を楽しく悩ませていたのだ。3月の前回のツアーもできたし、今回もいけるだろうということで、ツアー制作はほぼ自力。メンバーとPAさんと家族と友人だけで作り上げていった。私の思いつきに対してアイデアをくれたり、先回りして動いてくれたりサポート体制がすごい人たち。音楽も最高に仕上がっていて、バンドの凄まじいスキルとセンスの塊! と思って興奮。それぞれに活動しているバンドメンバーたちの作品もご覧いただきたい!
最高の仕上がりに心が踊りながらも、実は当日の朝までずっと不安で寝られなかった。「誰かに迷惑かけてないかな」「セルフイメージ大丈夫かな」「資金繰り大丈夫かな」という3つのトークテーマで脳内はずっと議論状態だったからだ。4、5人のさまざまな意見を持つ架空の参加者が登場して、あーだ、こーだって言い続けていた。
最近ラジオやインタビューが多くて考えることがたくさんあったからか、自分の考え方や言動への疑い、疑いへの疑いが生まれ、議論参加者はどんどん増えていく。ツアーには信頼できる優しい愛のある人たちが集まっていて、何も考えず音楽に身を委ねることだってできるはずなのに、なぜだろう、トークテーマの答えは見つけられないまま、思考は続いていく。ある意味頑固なのかもしれない。
ライブの告知動画も自分でたくさん作った!
人の音楽を聴いたり演奏を見たりして泣くことはあるけど、純粋にただ歌いながら、音を鳴らしながら泣きそうになったことって実はあまりなくて、上記の通り自分への疑いを捨てられない人間だから自己評価しながらパフォーマンスすることが多い。でも、ツアー本番が始まってみると、これまでとは違う感覚を覚えた。たとえるなら、学生時代、出会ったばかりの友人たちと好きな音楽や物、経験を共有し合って「いいね」と言い合っていた純粋な思い出が、ステージ上で数秒単位で繰り広げられているような感覚。
「あ、今の合いの手完璧だったね」ってその場で言いたくなって、すぐに他の人がグッとくるタイミングで別のアイデアを投げてくれる。そんな、そのまま記憶しておきたい一瞬一瞬を重ねていくと、自分への疑いも晴れていった。自分のこと信じられるようになるくらいに、みんなの音が安心感をくれたのだ。
ツアーのゲスト、来日アーティストや旧知の音楽仲間からの刺激
今回のツアーでは初めましての7FOさんを大阪にて、何度もご一緒させてもらってはいるけど緊張して誘った岡田拓郎さんを東京にてゲストとして呼びました。
7FOさんの異次元の海洋感、岡田さん(駿とマーティのトリオ)のいつまでも寝転がっていたいあったかい砂みたいな音楽、ツアーのご褒美でした。
Greedyなアレンジにつき、ツアーとは思えない楽器の数だったので(運んでくれたみんなありがとう!!!!)、感慨に浸る間もなく片付け、解散となってしまったが、そのあと深夜にバーで聴いたジャニス・ジョプリンがすっごく響いてきて、思い出し泣きをした。
話は前後するが、ツアーに気合いを入れるためにも最近は最高なライブをたくさん見た。ビッグ・シーフ、ウィリアム・バシンスキーなど海外からたくさん人が来日するようになり、どのステージも素晴らしくて刺激的だったが、なかでも度肝を抜かれたのはD.A.N.とOgre You Assholeの共同企画「Optimo」。昔Black Boboiでも参加させてもらったことがあったが、今回の日比谷野外音楽堂での公演はカッコ良すぎた。
両者ともにストイック貫いているスタイルは、憧れるものがある。日本にこのふたつのバンドがいて良かったなって改めて思った。D.A.N.はライブ活動をお休みすると言う悲しいニュースが入ってきたが、すでに復活する日が待ち遠しい。
天邪鬼だからついつい遠くの国の音楽だったり、メディアばかり追い求めてしまうけど、自分の身のまわりの音楽が最高だって、それがいちばん幸せなことじゃない? って『フレンズ』と重ねて感慨深く思ったこの1ヶ月。燃え尽き症候群でヘロヘロだが、もう30になったんだからしゃんとしないと。
文・メインビジュアル:ermhoi
編集:飯嶋藍子(sou)
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