地球と自分のためにできることって?『アースデイ東京』に聞く
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せかいを、めくる
4月22日が何の日か知っていますか? この日は、地球のことを考え、行動する日として、「アースデイ」と呼ばれています。名前からイメージはわくけれど、実際に世界ではどんなことが行われていて、私たち一人ひとりはどんなことができるのでしょうか?
地球に対して、個人がアクションをしてもなんだか影響が小さそう……と、なかなか行動にうつせない人も少なくないと思います。そんな思いをさらりと覆すように、「意識を変えるだけでアクションになる」と話すのは、『アースデイ東京』事務局長の河野竜二さん。今回は河野さんに「アースデイ」の成り立ちや歴史、地球が今抱えている問題から、一人ひとりが生活のなかでできる取り組みや心がけまで伺いました。
1970年4月22日にアメリカで始まったアースデイ。なぜ、どうして広まった?
4月22日に制定されている「アースデイ」って、どんな日なのでしょうか?
「アースデイ」は、地球を考えて行動する日です。1970年4月22日にアメリカで最初の「アースデイ」が開催されました。
今から50年も前なんですね!
そうなんです。前年の1969年にカリフォルニア州サンタバーバラでは原油流出事故が起こり、1970年はベトナム戦争の真っ只中。それが様々な社会問題にも発展していました。当時、アメリカの学生には徴兵制があって、自らの選択の余地なく戦争に行かなければならず、平和を望む学生と軍隊が衝突することもありました。彼らはフラワーチルドレンと呼ばれていて、カリフォルニアのヒッピームーブメントのきっかけと言われているんです。「武器ではなく、花を」をスローガンにし、軍隊の向ける銃口に花を添えるなどして、戦争に対して自由を求めていました。
そんな混沌とした時代で、どうやって「アースデイ」が始まったのですか?
1968年にアポロ8号に乗っていた宇宙飛行士が撮影した『地球の出(Earthrise)』と呼ばれる写真が「アースデイ」が興るきっかけとなりました。暗い宇宙のなかに青い地球がぽっかりと浮いている写真なのですが、史上最も影響力のあった環境写真と言われていて、人類が初めて肉眼で地球という存在を目撃したというとてもセンセーショナルなものだったんです。
現代の私たちにとっては地球ってそのイメージですよね。
我々が持っている地球のイメージのいちばん最初が『地球の出』なんですよね。初めて地球という存在を外側から人類が目撃したということで、人々の意識がかなり変わっていった。地球という同じ生命体のなかで生きているのならば、奪い合うのではなく、共存していく社会を目指すべきだよね、というふうに「アースデイ」が生まれました。
なるほど。具体的な共通認識ができたんですね。
そんな時代背景があり、ゲイロード・ネルソンという上院議員が「アースデイ」を発案しました。このデニス・ヘイズというスタンフォード大学の大学院生が、ネルソンが提唱した「アースデイ」の構想を全米に呼びかけ、1970年4月22日に「アースデイ」が本格的に始まったんです。全米で2000万人以上の人々が何らかのかたちで地球への関心を表現する行動を起こしたと言われています。翌日にはニューヨークタイムズの一面に、全世界が注目するような社会的な活動として取り上げられました。
「誰もが自分のできる方法で」「様々な表現の仕方で」参加できるのが、アースデイの特徴
それまでも環境問題に対する活動はあったと思うのですが、なぜ「アースデイ」は初回からそんなに注目されたんですか?
当時の公害問題や環境問題に対する活動は、学術的な難しい話やデモなどの大きな動きがほとんどだったんです。それに対して「アースデイ」は、誰もが自分のできる方法や様々な表現の仕方で参加できます。市民一人ひとりの草の根の運動で社会を変えていこうという動きだったことが、それまでの活動との大きな違いとして注目されました。それが地球の生命環境を守る運動として、全米、そして世界中に広がっていくきっかけとなったんです。実際、アメリカでは、最初の「アースデイ」がきっかけで環境省が生まれたり、環境法が整備されたりしたと言われています。
地球のことを考えて生活し続けるのって難しそうなイメージがあったり、一人で何かアクションをしても意味があるのかと無力感を感じたりする人もたくさんいると思うのですが、実際に社会を動かすことにつながっているのですね。
意識が変わること自体がアクションのひとつなんですね。
そうなんです。ただ、1975年からは年に約4万種程度の生物が絶滅していると言われていますし(※1)、1990年以降、地球上から南アフリカの国土面積以上の森林が失われ(※2)、CO2総排出量も50%増えています。また、5.6秒に1人の子どもが亡くなっている(※3)反面、20年前は約36億人だった人口が今では約80億人になっており、2058年には100億人を突破するであろう(※4)と言われているんです。
普通に生活しているだけで、地球にかなり負担をかけてきていたということですよね。
そうなんです。しかも、そういう様々な問題ってすべてがつながっていて。ちょうど今年の4月22日に『グレート・グリーン・ウォール』(監督:ジャレッド・P・スコット/2019年)というドキュメンタリー映画が日本で上映されるのですが、これはマリ出身のインナ・モジャというミュージシャンが、気温上昇によって砂漠化が進んでいるサヘル地域はじめとするアフリカを横断し、気候変動が結果的に人々にどう影響するかをリアルに体感していく作品です。気候変動によって住む場所や得られる資源がなくなるから、現地の人々は移動せざるを得なくなるんですよね。そうすると、もともと住んでいた人たちと資源の奪い合いや紛争が起こり、子どもたちまで武装する。
タイトルの『グレート・グリーン・ウォール』は、アフリカ大陸を8,000kmにわたって横断して植林し、緑を取り戻すことによって気候変動はもちろん、紛争を止めて、持続可能な社会を作っていこうという取り組みなのですが、この映画を観ると多くの紛争や戦争と気候変動はとても密接につながっていることがわかるし、日本においても今後同じようなことになりかねないということがわかります。
紛争と気候変動がつながっているとはあまり考えたことがなかったです。
そうですよね。だからこそ、この映画を観ると、気候変動は身近にある問題なんだと実感できると思います。実際、世界中の人々が今の生活を続けるには、地球が1.7個必要だと言われていますし、世界の人々が日本人と同じ生活をしたら地球が約2.8個、アメリカ人と同じ生活をしたら地球が約5個必要なんだそうです(※5)。つまり、今すでに人々の生活は水や、土壌、エネルギーなどの地球資源を前借りしている状態なんですよ。
え! すでに資源が足りていないということですか?
そうです。だから、やっぱり人々の意識を変えていかないといけない。人類が地球に生き残るためには、まずは地球の再生能力・自然資源と人類の消費の均衡が取れる状況を作らなければいけません。『アースデイ東京』も、そういった状況を目指す世界的な「アースデイ」のムーブメントのなかで、2001年からスタートしました。
『アースデイ東京』は毎年2日間、代々木公園で開催されていますよね。たくさんの人が集まっている印象があるのですが、具体的にどんなイベントが行われているのですか?
NPO・NGO団体の活動、個人の方々まで、気候変動だけでなく様々な社会問題に関するブースの出展、パレードやトークなどを行なっています。また、フードの出店や、忌野清志郎さんやUAさん、坂本龍一さんなど、社会を変えたいという願いを持ったミュージシャンの方々に支えていただきながら音楽ライブも行なってきました。フードやライブを機に足を運んでくれた人にも、様々な社会課題に興味を持つきっかけとなる“入り口”を作っているんです。そこから興味を持った団体の活動に参加するなど、実際のアクションにつながっていくこともありますからね。
マイボトル、クライマタリアン、パワーシフト……。楽しみを見出しながら、地球にも自分にも気持ちいいことに取り組んでみよう
「アースデイ」が始まって50年以上、『アースデイ東京』が始まって20年以上経っていますが、今から行動したり意識を変えたりしても遅くはないのでしょうか?
難しい問題ですね。でも、やらないともう間に合わないことははっきりしています。個人的には、正直遅いかもしれないし、間に合わないかもしれない、みたいなところはありますが、だからといって、何もしないまま次の世代にパスするのは避けたいですよね。だから、できるところからやっていく。そのためには、なんとなく地球のためにやるということよりも、自分が本当に「気持ちいい」とか「いいな」と思えることじゃないとなかなか続かないんじゃないかなと思っています。
そうですよね。でも、自分が本当にいいと思えて、地球に対してもいいことってあんまりぴんと来ない気がしてしまって。
そうですよね。「何が地球のためになるのか」と考える前に自然とやっている行動自体がサステナブルであるということがすごく重要です。本当に簡単なことでいうと、よく言われている「マイボトルを持つこと」もそのひとつ。純粋に好きな時にあたたかいコーヒーが飲めるし、仕事帰りにお店でクラフトビールを入れてもらって、帰宅してから飲んだりするのも楽しいじゃないですか。着るとテンションが上がる服があるように、「こういうアイテムを持っていると心地がいい」と思える要素を探して、そこに楽しみを見出していくというやり方なら続くと思います。
誰もが自分のできる方法や様々な表現の仕方で参加できるともお話しされていましたが、マイボトルのほかにはどんな方法がありますか?
実は本当にいろいろあるんですけど、たとえば食生活。最近ベジタリアンやヴィーガンが注目されていますが、クライマタリアンって聞いたことありますか?
いえ、初めて聞きました。
クライマタリアンは、なるべく温室効果ガスの排出が少ない食品やメニューを選ぶ食習慣のことです。ヴィーガンは「菜食主義者」ですが、クライマタリアンは概念としてもうちょっと広いイメージですね。たとえば、地産地消で地域のものを食べるとか、鳥獣被害や環境保全の問題解決にもつながるジビエを食べるとか。たとえば、ビーフカレーと野菜カレーがあったら、クライマタリアンは野菜カレーを選ぶ。ビーフカレーとチキンカレーの場合は、水や農地の利用量、温室効果ガス排出量において比較的負担の少ないチキンカレーを選ぶ。「どっちかといったらこっち」という考え方です。ヴィーガンまではいけないけど、より負担の少ない食品を選ぶことはできるかな、みたいな考え方は、僕は重要だと思っています。今年の『アースデイ東京』でも、クライマタリアンのブースが出展しますよ。
たしかにその選び方だったら気軽にできそうです! ほかには何かありますか?
あと、少しハードルが上がりますが、お金を預ける銀行を変えること。石油や石炭などの化石燃料を供給したり、それに依存したりしている企業に投資をすることをやめましょうという「ダイベストメント」という運動があるんです。今では世界の70か国、800以上の団体がダイベストメントを表明しています。たとえば、ベルリン、シドニー、ニューヨークは、行政としてダイベストメントに賛同しています。
化石燃料を使ったり開発に向かわせたりするような企業に投資している銀行にお金を預けることをやめて、サステナブルな事業に投資している銀行にお金を預けることによって、石油燃料の開発に関与しないような動きを作っていく。ネットでその銀行がどういう事業に投資しているか見ることができるので、地方銀行やネット銀行などのサイトを見てみてください。
なるほど。最近はよく再生可能エネルギーに電力を切り替える人も増えてきていますが、そういったことも意味はありますか?
パワーシフトですね。これはすごく簡単だけど、気候変動の対策にかなりインパクトのあるアクションです。自宅で使っている電気を、太陽光や風力、小水力とか、再生可能エネルギーに切り替えるという方法です。
新しく何かやるというよりも、今あるものを置き換えるんですね。
そうそう。変えてしまったらあとは今までどおり生活できます。電力でいうと、僕は「みんな電力」に切り替えましたが、切り替えればあとは特に何もする必要がありません。「みんな電力」からは気候変動の現状などがメルマガで送られてきて、いろんな情報が入ってくるんです。今までなんとなく電気代を払い続けていましたが、電力を切り替えただけで入ってくる情報も変わりましたし、「自分、貢献してるじゃん」ってちょっと気持ち良かったりもするんですよね。
本当にそうだと思います。楽しいとかおいしいとか、安くなるとか、気候変動よりもっと手前の部分の情報が豊富にあれば、自ずと一人ひとりの行動が変わると思います。そして、食にしてもライフスタイルにしても、市民が求める声が多くなっていけば、市場が変わっていく。だから、一人ひとりがちゃんと求めていくことって大事なんです。関心を持ったり小さいアクションをしたりするだけで、社会が変わる可能性があるんですよ。
最後に『アースデイ東京』を訪れる人に、どんな体験をしてほしいか教えてください。
自分の興味関心と『アースデイ東京』のコンテンツをつなぎ合わせて参加してもらえるといいなと思います。気候変動だけでなく孤独死や自殺の問題などいろんな社会問題を扱う約220のブースがあるので、必ずどこかに接点があると思うんです。そのなかで何かぴんときたものから見てもらえたら、意識が深まっていくきっかけになると思います。
あと、環境問題の手前にある、人との関係性やつながりを作っていただくのが重要だと思っています。『アースデイ東京』の今年のキャッチコピーは「ファミリー・アース」なのですが、血縁ということだけでなく、地球という大きな器のなかにいる僕たちってもうみんな家族じゃない? っていうつながりの意識を持てると、消費行動やライフスタイルが変わると思います。そのきっかけを作りたいので、僕も含めいろんな人とコミュニケーションを取ってつながってもらえたら嬉しいです。
※1……『環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書│環境省』より
※2……『世界森林資源評価(FRA)2020』より
※3……『公益財団法人 日本ユニセフ協会』より
※4……『国連人口基金 駐日事務所』より
※5……『WWFジャパン』より
プロフィール
河野竜二
神奈川県出身、湘南在住。音楽フェスや地域活性イベントのサポートを行い、趣味のサーフィンから環境問題に興味を高める中で、日本最大級の環境イベント「アースデイ東京」の活動に参画。2018年に事務局長に就任。地元湘南では鎌倉の農業を新たな形で継承するコミュニティ型農業支援「ニュー農マル」や、一年中泊まれる大人の海の家「koyurugi stay」をプロデュースし、持続可能な社会の実現に向け奔走している。
テキスト:飯嶋藍子(sou)
イラスト:ZUCK
編集:野村由芽(me and you)