三原勇希&中嶋亮太と学ぶ海洋プラスチックごみ問題。楽しく前向きにプラフリーを
地球環境に今、何が起こってる?
vol.2
みなさんは、「海洋プラスチックごみ」と聞くとどんなイメージを持たれるでしょうか。私たち人間が普段使っているレジ袋やペットボトル、使い捨て容器などのプラスチック製品がごみとなり、海へと流れ込むことで生まれる海洋プラスチックごみが今、深刻な問題となっています。SDGs17の目標には「海の豊かさを守ろう」という項目があり、海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用することを目指しています。そうした取り組みのなかで、海洋プラスチックごみ問題はどのような位置付けにあるのでしょうか。
さまざまな環境問題にまつわるモヤモヤを掘り下げていくシリーズ「地球環境に今、何が起こってる?」の第2回目となる今回は、普段から環境問題に高い関心を持ち、自身の生活や活動のなかでも「プラスチックフリー」を掲げているタレントの三原勇希さんが登場。JAMSTEC(海洋研究開発機構)で海のプラスチック問題について研究しながら、ウェブサイト「プラなし生活」の運営を行う中嶋亮太さんに、プラスチックごみが私たちの生活に与える影響や、そのなかでも実践可能な取り組みについて伺いました。
Q. どれくらいの量のプラスチックごみが、海に流出している?
A. 毎年約1000万トンが流出。すでに1.5億トンが海中に。でも、そのほとんどが「行方不明」なんです
─三原さんが環境問題に興味を持つようになったのは、どんなきっかけだったのですか?
三原:特に大きかったのは、2018年にボルネオ島へ取材に行ったときのことでした。ヤシノミ洗剤などを製造している「サラヤ」という日本の企業が、現地でどのような環境保護活動をしているかを取材する企画だったのですが、ヤシの実のプランテーションで熱帯雨林が破壊されている実情を目の当たりにしたり、それにより追い出された動物たちの保護施設を見学したりしました。でも、その一方で、観光客に近い目線で豊かな自然も満喫するというギャップが、自分にとってはものすごく衝撃的な体験だったんです。その経験を機に、例えば洗剤の選び方ひとつでも環境保護に何かしらの効果があるのであれば、喜んで実践していこうと思うようになりました。
─では、「海洋プラスチックごみ」と聞くと、どのようなイメージがありますか?
三原:最近よく耳にする言葉だなとは思っていましたが、まだ全然詳しいとは言えないです。海洋プラスチックごみのひとつである「マイクロプラスチック」も、サイズが5mm以下の微小なプラスチックだとは知っていますが、ちょっとイメージが湧きにくくて。ただ、釣りが好きで海に行く機会が多いので、釣り人が出すごみの量に驚いてしまうことは多いですね。
釣り場って、食べ散らかしたごみや釣り用の仕掛け、コンビニのレジ袋などが散乱していることが多々あって、問題になっているんです。すべての釣り場がそうではないと思いますが、実際に目にすると同じ釣り人として心苦しいものがあります。自分が行ったときにはごみ拾いすることを心がけているのですが、そういう場所で落ちた釣り糸が魚や鳥などを傷つけてしまうことは容易に想像できるので、海にまつわるごみの問題に関してはリアルに感じています。
─中嶋さんが海洋プラスチックごみに関心を持つようになったきっかけも教えてもらえますか?
中嶋:私はもともとサンゴ礁の研究をしていたのですが、その一環でマレーシアに1年ほど滞在していたときに、港に大量のプラスチックごみが溜まっている様子を目にして。「こんなにあるんだ」と大きな衝撃を受けたんです。その後、水族館でウミガメの胃袋から出てきたプラスチックごみの展示などを見て、生き物が食べてしまう現実も改めて認識しました。
中でもマイクロプラスチックに関しては、そこに付着した病原菌がサンゴ礁に重大な影響を与えている事例が出てきているので、このまま放っておけばサンゴ礁にも問題が起きるだろうと。それでなくてもサンゴたちは地球温暖化で苦しんでいるのに、さらにプラスチックごみでも苦しめられるのかと思ったら、いてもたってもいられなくなったんですよね。
三原:具体的にはどのような活動をしているのですか?
中嶋:私たちJAMSTEC(海洋研究開発機構)が掲げているのは、「行方不明のプラスチックごみを探す」というミッションです。現在、海にどのくらいの量のプラスチックごみが漏れ出してしまったのか正確な数字は誰も分からないのですが、過去65年間の間に作られたプラスチック総量の、すくなくとも1.8%はあるだろうと言われています。とすると、推定で1億5,000万トンのごみが海のなかにあるんです。
ちなみに、年間で作られるプラスチックの量は4億トンにのぼり、それとほぼ同じ量が廃棄されています。しかも、4億トン作ったプラスチックのうちの半分が「使い捨て」なんですよ。
三原:「使い捨て」というのは、例えばストローの袋やレジ袋など、包装に使われるプラスチックのことですか?
中嶋:はい。容器包装用だけでも、全世界で出るプラごみの47%を占めています。そこにストローやフォークなどを入れると半分を超えるわけですよね。何億トンというレベルで廃棄されている。途上国の一部の地域のようにごみがきちんと管理されていないところでは、ごみは野ざらしにされることが多いんです。そこに台風などの嵐が来ると、簡単に海へ飛ばされてしまうんですよ。
三原:そういえば、バリ島へ行った時もかなりごみが海に浮いていて衝撃的でした。離島まで行かないと全然きれいじゃなかったんですよ……。
中嶋:バリ島などは、観光客の目が届かないところに大量のごみ山があるんです。海外から来た観光客が大量のごみを出し、それをバリ島だけでは処理しきれないので隠しているわけです。先ほど、およそ1億5,000万トンのプラスチックごみが海に漏れ出したと言いましたが、そのうち半分くらいは海に浮いていると考えられていました。ところが、研究者が観測とコンピューターシミュレーションを使って調べてみたところ、実際に浮いているのは数十万トンしかなかったんです。あるとされている量の約1%しか見つからず、残り99パーセントが行方不明になっているんです。おそらく深海に沈んでいるであろう海洋プラスチックごみを、JAMSTECで徹底的に調べることにしたのはそういう経緯からです。
Q. 海洋プラスチックごみの何が問題? 私たちにどう影響する?
A. プラスチックとそれを食べた魚を通して、知らず知らず私たちの身体にも入ってくるんです
中嶋:冒頭で三原さんがおっしゃったように、海に溜まっているごみはなかなか想像しづらいし、増えている実感もないと思うんですよ。でも、海に捨てられたプラスチックは、私たちのところに返ってくるんです。
ー「返ってくる」というと?
中嶋:要するに、ごみを食べた魚が食卓に上がってくるんです。ほとんど全ての海の生き物がプラスチックごみを食べているのではと考える人もいます。プラスチックごみの大きさは、目視できるレベルから目に見えないくらい細かくなったものまでさまざまです。例えば、イワシってプランクトンを食べるために口を開けて泳いでいるんですね。そのときに、一緒にプラスチックごみも口の中に入ってしまう。糞として体外に出てしまえばまだいいのですが、そのまま体に蓄積されているプラスチックも相当あるとされています。
三原:その魚介類を、私たちも食べているわけですね。
中嶋:はい。プラスチックごみには、プラスチックそのものだけでなく化学物質がたくさん含まれているんですよ。例えばペットボトルの蓋からは、紫外線吸収剤が検出されている。これは紫外線に弱いプラスチックが劣化しないように含まれていますが、ある種の紫外線吸収剤は、生殖機能に何かしらの影響をもたらす生殖毒性があるといわれています。そういう物質は体内に入って脂肪に溜まっていってしまうんですよね。
三原:今はそういうことが、徐々に明らかになってきている段階なのですね。
中嶋:他にもあります。昔はたくさんの有害な化学物質を海に捨てていました。殺虫剤のひとつであるDDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)や絶縁体に使うPCB(ポリ塩化ビフェニル)など、今の基準では危険とされている廃棄物もそこには含まれていました。そういった物質は、海に入っても分解せずにずっと残っているんです。しかもプラスチックごみにくっつきやすい。
例えばタッパーにカレーを入れると、その油って洗剤を使ってもなかなか落ちないじゃないですか。あれは、プラスチックが油と相性抜群だからです。もともとプラスチックは石油でできているため、「油の塊」みたいなものなんですよ。それと同じ理屈で、海に含まれている油っこい有害な化学物質がマイクロプラスチックとくっつく。
マイクロプラスチックはさまざまな化学物質を含んでいるので、「化学物質のカクテル」とも呼ばれています。それを食べた生物の脂肪に有害な化学物質が溶け込み、その生物を食べた捕食者の体の中にも入って濃縮されていく。そうやって「生物濃縮(生物が、環境中に存在する物質よりも高い濃度で、外界から取り込んだ異物を体内に蓄積してしまうこと)」が繰り返されているんです。
三原:つまり、プラスチックが特に問題視されているのは、化学物質とくっついてしまったり、それによって体内にも入りやすくなっていたりするからなんですね。しかもなくならないと。……怖くなってきました。
中嶋:とはいえ、私たちが食べるすべての魚が危険レベルにあるほど有害物質を含んでいるわけではありません。僕も普通に魚を食べます。ただ、海のプラスチックごみはますます増えているので、そういった可能性があることを知ることから、プラスチックを減らすための行動につながっていくと思うんです。
Q. プラスチックごみ問題を「自分ごと化」するには?
A. まずは「レジ袋」など身近なプラスチックに注目。新しい法律の施行も変化を生むはず
中嶋:現在プラスチックの生産量は、年に5%の勢いで増えています。1950年から2017年までの間に、私たち人間は約92億トンのプラスチックをつくり、そのうち70億トンくらいがごみになってしまった。東京スカイツリーの重さに換算すると、ごみになった量は19万本分に値します。しかも右肩上がりで増えているから、2050年までに合計340億トンのプラスチックが作られるわけです。そのうちの数パーセント、だいたい10億トンが海に漏れ出るとなると、現在海のなかにいる魚の総重量8億トンを超えてしまう。30年後には魚を超える量のごみが海を漂っていることになります。
三原:私が見たごみだらけのバリ島の海が、世界中に広がってしまうのですね。海洋プラスチックごみの問題はよく耳にしていましたけど、その量には衝撃を受けました。もちろん、これだけプラスチックが生産されているのは、安くて丈夫で便利だからだと思うのですが、だからこそこの問題をもっと「自分ごと」として感じるためにはどうしたらいいのでしょう。
中嶋:これからどんどん変わっていくと思います。今年の4月には「プラスチック新法」(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)という新しい法律が施行されました。これは、プラスチックを製造したり回収したりするすべての企業、消費者に影響を及ぼす法律で、たとえばコンビニや飲食店など、フォークやストローを無償で提供する事業者に対して、使用の合理化のために取り組むべき判断基準を定めます。有料にしたり、利用者が「要らないです」と言うとポイントがもらえたり、店員は「ストロー、フォークはご入用ですか?」などと尋ねることを義務付けたり。ホテルのアメニティーも無料ではなくなります。やり方は各々の自治体に任されているのですが、これで大きく変わると思いますね。
三原:きっとレジ袋が有料化されたときのように、反発もたくさんあるでしょうね。
中嶋:レジ袋ってペラペラで軽いじゃないですか。日本全体でおよそ900万トンのプラごみが出るのですが、レジ袋の占める割合は、重さにするとそのうちの2%くらいなんです。「そんな2%のごみを減らしても意味がない」というのが、レジ袋有料化に反対する人たちの主張ですよね。でも、重さでは2%でも、「数」ではトップクラスなんですよ。とにかくものすごい量のレジ袋がつくられ、捨てられている。僕が深海で見つけるプラごみもほとんどがレジ袋。それはやはり「数」が多いからなんですね。
三原:そうなんですね……! 確かに、レジ袋って軽いから風ですぐ飛ばされますよね。そういうものが、巡り巡って海に流れ込んでいくんですね。
中嶋:そう、それが世界中で起きているんですよね。しかもレジ袋はペラペラで、紫外線が当たるとすぐ劣化する。かなり速く小さく砕けていって、最終的にはマイクロプラスチックとなって回収不可能になるんですね。だから、レジ袋は真っ先にやっつけなければならないプラごみですし、その有料化はものすごく意味のあることなんです。
三原:知りませんでした。ということは、有料化によってレジ袋をなるべく外に持ち出させないようにするのも効果的なんですね。これからは、もし誰かが「レジ袋を有料化したって意味なくね?」みたいなことを言っていたら、ちゃんと説明できそうです!
Q. 個人レベルの活動でも意味があるの?
A. 大切なのは楽しむことと、人に強要しないこと。そのほうが長続きするし、賛同する人も増えていきます
─お二人は、日常レベルではどんな環境保護活動をしていますか?
三原:私は、自分が運営している女性のためのランニングコミュニティ「GO GIRL」の活動の一環として、持参した袋を使ってごみ拾いをしながら街を走るイベントを定期的に開いています。これは世界中で取り組まれていて「プロギング」という名前もあるんですよ。いつも走っているコースでもよく見てみると、ごみがたくさん捨てられている地区もあれば、逆にすごくきれいな地区もあるんです。「それはなんでなんだろう?」と自分の視点も変わりますし、会員の皆さんにも環境問題や気候変動への意識を高めてもらいたいと思っています。実際、プラスチックごみについて、プラスチック商品を製造する会社で働いている会員の方と、インスタライブしたこともありますね。
生活のなかでは、特にごみを減らすことを意識しています。買い物はまずセカンドハンドで探したり、いらないものはフリマやアプリで人に譲ったり。また、プラスチックフリーにするために、すでに持っているプラスチック用品を捨てる考えもあるとは思うのですが、私は今使っているものはそのまま大切に使いたいと考えています。
それから使い捨てのプラスチックは出来る限り増やさないよう、マイボトルやマイバッグ、マイ歯ブラシを持参しています。タッパーも今はホーローにしたんですよ。プラスチックよりずっとおしゃれだし、ご飯も美味しそうに見えますし。掃除用品でも、ブラシやスポンジ類は天然素材のものを選んでみたり。それと、最近パワーシフトしたんですよ。電力会社を再生可能なエネルギーに変えたのですが、普段の生活でできることの中でも、パワーシフトは何か大きなことができたような気がして気持ちいいです。自己肯定感上がります!(笑)
中嶋:僕は「プラなし生活」というウェブサイトを友人と運営しており、国内で取り組めるプラフリー活動を毎日実践しては検証し、よかったものはブログやYouTube、Instagramなどで発信しています。たとえばキッチンってごみがたくさん出るじゃないですか。スポンジはポリウレタンでできていますが、長く使っているとボロボロのプラごみとなって下水へ流れます。「洗剤いらず」と言われるメラミンスポンジも、マイクロプラスチックとなってしまう。日本やフランスなど先進国の下水処理場は超優秀で、マイクロプラスチックを99%取り除く工程がある。ただ、除去しきれない1%は海へ行くし、雨が降って下水から溢れ出てたぶんも同じく処理できないんですよね。
三原:そうだったんですね……!
中嶋:また、洗顔フォームの中にも、スクラブ粒として今もポリエチレン粉末を使用している商品があります。ただ、あまりにも問題だということでアメリカではオバマ政権の特に全米で製造も販売も禁止にしました。
三原:女性用化粧品のラメなどもプラスチックだとは知りませんでした。そういう大胆な政策をとっているのはアメリカのすごいところですよね。
中嶋:やるときはやる国ですよね。日本はまだ「自主規制」の範囲内ですが、それでも花王とライオンはスクラブ入りの洗顔フォームの製造をやめるなど、早くから環境問題に取り組んでいる企業もあります。
―三原さんはお買い物する際に、企業の環境保全活動に注目することはありますか?
三原:はい! 消費者としてはホームページなどをチェックして、環境や人権に配慮している国内の製品をなるべく買っています。買い物は投票であって、そういう取り組みをしている企業の応援や貢献になりますもんね。ただ、地球に優しいことって少し手間がかかることも多いので、個人レベルで小さなことを続けるのが難しかったり、「これに意味があるんだろうか?」と思ってしまったりします。
中嶋:わかります。そこで大切なのは、楽しみながらやることと、人に強要しないことだと思っています。例えば今日、うっかりペットボトルで飲んじゃったとしても、そんなに気にしない。「いつも飲んでないから大丈夫」くらいに思って前向きに過ごしたほうが、結果的に長続きすると思います。そうやって一人でも行動さえしていたら、やがてそれに賛同する人も増えてくるはず。
三原さんがプラごみの削減に取り組んでいると知ったら、それを「素敵だな」と思って参考にする人もいらっしゃると思うんですよ。そうやって広がっていくことが大事だし、消費者の意識が変われば、企業も「変わらなきゃ」と思い、それを政府も後押ししてくれる。あと、意外と盲点なのは、プラスチックを減らすと空間がおしゃれになるんですよ。
三原:それは確かにそうですよね。今回こういう機会をいただけたことでお話できてうれしいですし、中嶋さんから具体的な数字を提示してもらいつつお話を聞けて、その深刻さがよくわかりました。これからはもっとSNSなどでも言っていこうと思います。
今までは「プラスチックを減らしたほうがいい」ということを、誰かにしっかりと説明できるほどの自信がなかったのですが、今日のお話は身近でとてもためになりましたし、確信も持てました。今、まさにプラスチックごみの影響が分かりつつあるなかで、世界もやっと変わり始めているところなのだろうなと。状況は深刻ですが、悲観的にばかりならず、プラスチックを減らす生活が自分の当たり前になるまで、気持ちよく続けていこうと思います。
参考サイト:
・プラなし生活
・プラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)
インタビュー・テキスト:黒田隆憲
撮影:タケシタトモヒロ
編集:石澤萌