市川渚、haru.、作本潤哉、和田彩花が選ぶ。「心がめぐる美術館・ギャラリー」
自分の心地よさを見つけて、すこやかによりいきいきと日々を過ごすための場所
こころが、おどる
高い天井に余白のある建築空間、自然溢れる周辺環境……。一歩足を踏み入れると、日常の忙しなさから少し解放されるような感覚に包まれる美術館・ギャラリーが、さまざまなエリアに存在しています。この記事では、クリエイティブコンサルタントの市川渚さん、ディレクターの作本潤哉さん、クリエイティブディレクターのharu.さん、オルタナティブアイドルの和田彩花さんの4人に、「心がめぐる」をテーマにお気に入りの美術館・ギャラリーを紹介いただきました。デザインやイベント制作、空間をいかしたパフォーマンスなど携わる4人が、美術館・ギャラリーの思い出とともに、自らの言葉でその魅力を綴ります。
「モダンでありながら重厚な風格をまとった建築と、自然溢れる広々とした庭園はお散歩するのにもぴったり」
東京都庭園美術館(東京)
教えてくれた人:市川渚さん(クリエイティブコンサルタント他)
1933年に建てられた建築と緑豊かな庭園からなる、東京都庭園美術館。昭和、平成、令和という時月を経ても古びない、旧宮家である朝香宮家が実際に日々を過ごしたアール・デコ様式の邸宅には、至る所にあしらわれた細かな仕事に目を奪われるレリーフ、艶々と光りを放つ木製の建具や家具、美しい織物のカーペット、天然石の壁や床といった当時からの美しい設えが大切に修復・保存されています。
シックな色彩と素材の質感、窓を通して差し込む自然光とシャンデリアの優しい光が織りなすモダンでありながら重厚な風格をまとった館は大量生産・大量消費の現代に生まれた私たちに、「本質的な豊かさとは何か」という問を投げかけてくるよう。また、芸術やファッションに造詣が深かったというお洒落な允子妃殿下のセンスや視点が生かされた空間や設えにも注目です。きっと、今の時代にいらっしゃったらインフルエンサーとして活躍していたかも……?
また、その時どきで変わる企画展は、館の特徴を毎回違ったかたちで生かしていて、「今回はあの空間をどのように使っているのかな」と想像しながら巡るのも楽しい。目黒駅近くという立地を思わず忘れてしまうような、自然溢れる広々とした庭園はのんびりとお散歩するのにもぴったりです。尋ねるたび、心ほぐされ、ほくほくした気持ちで、美術館をあとにしています。
- 美術館・ギャラリー情報
東京都庭園美術館- 住所:東京都港区白金台5-21-9
- 休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館)、年末年始
- 開館時間:10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
https://www.teien-art-museum.ne.jp/
プロフィール
市川渚
ファッションデザインを学んだのち、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。クリエイティブ・コンサルタントとして国内外の企業/ブランド、サービスのコミュニケーション設計、コンテンツ企画・制作・ディレクションに関わる。
またクライアントワークの傍ら、自身でのクリエイティブ制作にも注力しており、フォトグラファー、動画クリエイター、コラムニスト、モデルとしての一面も合わせ持つ。丁寧なモノづくりと少し先の未来を垣間見れるデジタルプロダクトが好き。
https://nagiko.me/
https://www.instagram.com/nagiko
https://twitter.com/nagiko726
https://www.youtube.com/nagiko
「築60年の2階建ての一軒家を丸ごと改装した居心地の良いオルタナティブスペース」
ie(北海道)
教えてくれた人:作本潤哉さん(ディレクター)
札幌の中心地、ススキノや狸小路あたりから南の方に歩いて10分ほどの閑静なエリアにあるオルタナティブスペース、ie(イエ)。ieという名前の通り、築60年の2階建ての一軒家を丸ごと改装し、1Fにはギャラリーやキッチン、2Fには図書室、ファッション、そして多目的室を併設しています。外観は普通の一軒家ですが内装は部屋ごとに異なる表情の展示空間になっており、様々な刺激を得ることができます。
ロンドンに留学し東京でi-D Japan Magazineの編集に携わってきたWakoさんが地元である北海道で2021年1月に開設、個人のアーティストからファッション〜プロダクトに至るまでさまざまなクリエイティブに関わる展覧会を意欲的に開催されています。僕も2023年の夏にセラミックレーベルSHOKKIと雑誌TOO MUCH Magazineによる展覧会 “108 Ways of Entering Nirvana”を開催させてもらいました。設営から数日寝泊まりもできてとても居心地良かったです。
ちなみにWakoさんは最近“iede”(家出)というプロジェクト名でieを飛び出し道外に積極的に出ていく活動もされていました。ぜひ今後の動向もチェックしてみてください!
- 美術館・ギャラリー情報
ie- 住所:北海道札幌市中央区南8西1-13-75
- 休館日:水曜日
- 開館時間:15:00〜22:00
https://iesapporo.official.ec/
https://www.instagram.com/ie_sapporo/
プロフィール
作本潤哉
フリーランスのちにsakumotto ,Inc.を2017年にスタート、商品やイベントの企画や演出関係、POPUP SHOPでの出店など活動は多岐に渡る。自由さ、そして上品さを兼ね備えた、新鮮なパフォーマンスを目指し、ジャンルにとらわれないクリエイティビティの創出、そしてアーティストのサポートを行う。
https://www.sakumotto.jp/
https://www.instagram.com/sakumotto/
https://twitter.com/JUNYASAKUMOTO
「海や山に囲まれ、自然光にたっぷりと包まれる建物に大きな安心感を覚える」
神奈川県立近代美術館 葉山(神奈川)
教えてくれた人:haru.さん(クリエイティブディレクター)
「心がめぐる」美術館と聞いて、すぐに思い浮かんだのが神奈川県立近代美術館です。 子どもの頃に父に連れられて初めて訪れたときから、海や山に囲まれ、自然光にたっぷりと包まれる建物に大きな安心感を覚えます。 ちょうど今の私くらいの年齢から葉山に住んでいた画家の父は、ずっと海をモチーフに制作していますが、生活と父の表現は地続きなのだ、と子どもながらに感じ取った記憶があります。
その後、私が大学に入学した2015年、まだお互いのことをよく知らないクラスメイトたちと、授業の一環で美術館を訪れました。20世紀前半の日本と韓国の美術、そして美術家同士の交流をテーマにした、かなり大規模な見応えのある展覧会だったと思います。 普段はキャンパスでしか会うことのない同級生たちがはなやぐ姿がとても新鮮で、それから送る学生生活にうっすらと希望のようなものを抱いた一日でした。今でもふとしたときに思い出す光景です。
展示の内容や訪れる季節によって多様な姿を見せてくれるけれど、その建物の佇まいからは簡単には変わらないという意志も感じられる。せわしない東京で四季の変化にも気づけなくなるとき、「帰りたい」と思わせてくれる場所のひとつかもしれません。美術館からの帰り道、バスに揺られながら夕陽を浴びるのもおすすめです。
- 美術館・ギャラリー情報
神奈川県立近代美術館 葉山- 住所:神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1
- 休館日:月曜日(ただし祝日および振替休日の場合は開館)、展示替期間(ただしレストランと駐車場は月曜日を除き営業)、年末年始(12月29日から1月3日)
- 開館時間:9:30〜17:00 ※入館は16:30まで
https://www.moma.pref.kanagawa.jp/hayama
プロフィール
haru.
1995年生まれ、東京在住。学生時代に同世代のアーティスト達とインディペンデント雑誌HIGH(er)magazineを編集長として創刊。2019年に株式会社HUGを立ち上げ、仲間とともに働き方を模索中。「自分たちに正直でいること」をものづくりのモットーに掲げる。
https://h-u-g.co.jp/
https://www.instagram.com/hahaharu777/
「太陽の光がたくさん降り注ぐガラス張りの空間と、豊かな自然環境を一度に味わえてしまう大好きな場所」
世田谷美術館(東京)
教えてくれた人:和田彩花さん(オルタナティブアイドル)
田園都市線用賀駅から14分ほど歩くと、サイクリングコースを楽しめる広さと豊かな自然環境をもつ砧公園にたどり着く。休日は、親子のキャッチボールする姿が眩しい。そんな公園内には、木々に溶け込むようにひっそりと、けれど重厚な外観で堂々とした佇まいの世田谷美術館がある。
ドーム型のエントランスは明るく開放感に包まれる。入ってすぐ正面に見える階段の手すり部分の波打つようなデザインに心踊る。ここでは建物の細部の装飾までも素敵なことを発見してしまう。
私が世田谷美術館でとくに好きな場所は、エントランスから続く1階の展示室に向かう渡り廊下だ。重厚な外観と連続する三角形の柱と太陽の光がたくさん降り注ぐガラス張りの空間、周囲の豊かな自然環境を一度に味わえてしまう大好きな場所。この空間を味わいながら展覧会入り口へ向かって歩いているとき、これから起こるであろう素晴らしい経験への期待でいっぱいになる。
もちろん世田谷美術館の魅力が詰まった空間は、ここだけではない。椅子に座ってゆっくりできる回廊や展示室の大きな窓から覗ける自然、コンクリートの暗さと降り注ぐ光のコントラストの数々。
そして何より素晴らしいのは、いつ訪れても楽しさと学びに溢れた展覧会。世田谷にまつわる展示も多く、この場所含めて好きで溢れる、心がめぐる美術館。
- 美術館・ギャラリー情報
世田谷美術館- 住所:東京都世田谷区砧公園1-2
- 休館日:月曜日(祝休日の時はその翌平日)、展示替期間、年末年始(12月29日〜1月3日)
- 開館時間:10:00〜18:00 ※入館は17:30まで
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
プロフィール
和田彩花
1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。
アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は《菫の花束をつけたベルト・モリゾ》。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。
http://wadaayaka.com/
https://www.instagram.com/ayaka.wada.official/
https://twitter.com/ayakawada
編集:野村由芽(me and you)